佐藤崇徳・我孫子隆・杉田亜希子:
GISを用いた農業集落カード・データの分析


III. 農業集落GISのを利用した地理学的分析の可能性


 本章では,構築した農業集落GISを利用して,宮崎市周辺地域の農業の空間的分布について若干の分析を試みたい。

 図5を見るとわかるように,対象地域内での農業集落の分布には,明瞭な粗密の偏りがある。すなわち,北東−南西方向に延びる線,北西−南東方向に延びる線,東側の太平洋に面する海岸線に囲まれた三角形の範囲に多くの集落が分布している。これは地形的要因に強く影響されたもので,北西側の九州山地,南西側の鰐塚山地に囲まれた宮崎平野に集落が集中しており,それ以外の山間部には集落がきわめて少ないことがわかる。


1. 農業経営の空間的分布の把握

 図6は,集落内の農家が経営する耕地のうち,ビニールハウスを使って野菜等を栽培している面積の比率を表したものである。宮崎平野は遠隔地輸送園芸が盛んな地域として有名であるが,この図を見ると,宮崎平野のなかでもハウス栽培が行われている農地の比率にはかなりの地域的差異があり,宮崎市から新富町にかけての海岸沿いと,そこから一ツ瀬川に沿って内陸へ入った西都市中心部付近などで,施設園芸が盛んに行われていることがうかがえる。

 また,その経年的変化をアニメーション表示によって見ると,ハウス栽培がしだいに拡大してきた様子がわかる。

【図6 経営耕地にしめるハウス栽培面積の比率】


2. 農業経営と地形条件・土地利用との視覚的比較

 施設園芸が盛んな集落の分布の地域的差異の背景には,地形的条件と農地利用との関係が推測される。そこで,この地域の地形条件および土地利用を把握するために,DEMデータおよび土地利用のメッシュデータを用いて,この地域の土地利用を投影した鳥瞰図を作成した。

【図7 宮崎平野北部の地形と土地利用(鳥瞰図)】

 図7は,宮崎市北部から川南町にかけての地域を東側の日向灘上空から眺めた鳥瞰図である。図中の中央やや左を流れる河川が一ツ瀬川である。一ツ瀬川沿いには沖積低地が広がっており,主な土地利用は,水田と集落 (建物用地) となっている。一ツ瀬川より北 (右) 側には標高50〜100mの洪積台地が広がっており,畑が広く分布している。一方,一ツ瀬川より南 (左) 側の沿岸部には砂堆が発達していることが,筋状に延びている森林 (防風林) や畑から読みとれる。

 続いて,同様の鳥瞰図に先ほどの集落別ハウス栽培面積比率を投影したものを作成した (図8)。この図からは,ハウス栽培が行われている農地の比率が高い集落は,一ツ瀬川沿いの低地と砂堆の発達する海岸平野に分布しており,洪積台地上では施設園芸が盛んな集落はほとんどないことが明瞭に読みとれる。したがって,施設園芸は水利などの条件から沖積低地を指向しているのではないかと推測される。

【図8 佐土原町・新富町周辺のハウス面積率別農業集落の分布(鳥瞰図)】


3. 土地利用メッシュデータとの重ね合わせによる不耕作地分布の分析

 次に,集落周辺の土地利用と農地経営との関係を見るため,メッシュの土地利用データとの重ね合わせによる分析を行った。

 事例地域のうち,沿岸部の市町村では,集落は空間的にほぼ均等に分布している。そこで,沿岸部の6市町(宮崎市,田野町,佐土原町,高鍋町,新富町,川南町)について面積と集落数を集計すると,全体で644集落,647km2となり,ほぼ1km2につき1集落の割合であることがわかった。そこで,「1/10細分区画土地利用データ」をもとに第3次メッシュ(約1km四方)毎に 集計した。そして,第3次メッシュ内での土地利用の割合をもとに林野地域,農業的土地利用地域,都市的土地利用地域,水域に分類し,この第3次メッシュごとのデータと農業集落のデータを重ね合わせせて,3類型(水域には農業集落は存在しない)ごとに農業集落データを集計した。

 表1は,不作付地面積の経営耕地にしめる比率 (図9) および耕作放棄地面積の経営耕地に対する比率 (図10) を,集落周辺の土地利用類型ごとに集計し,平均値を求めたものである。

【表1 集落周辺の土地利用類型ごとの不作付地率および耕作放棄地率】

 この集計結果によれば,不作付地面積の比率は,林野で若干高いものの3類型間において大きな差は見られず,これだけからでは,不作付地面積の比率の規定要因はつかめなかった。一方,耕作放棄地面積の比率は,林野で約8%,その他で3%と大きな差があり,山間部で耕作放棄地が多く発生していることがわかる。しかし,沿岸部の一部地域でも耕作放棄地の比率の高い集落が多く分布にしているなど,集落周辺の土地利用以外の別の要因も大きく作用していると考えられる。このような点は,さらなる分析や現地調査において明らかにする必要がある。


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