このような理由から,再び丹那断層で調査が行われることになったのである。では,丹那断層のどこで調査を行うか。条件のひとつは,沖積層が長期間にわたって連続的に堆積している場所。そして,もうひとつの条件。同じ地層が一面に堆積していたのでは,横ずれがはっきりと読みとれない。断層公園の石組みや火雷神社の鳥居と石段のようにずれ幅を知る指標となるものが,大昔の地層のなかに必要である。もし草原のなかに小川が流れていたら…,小川の底にだけ砂が堆積するはずである。そのような条件から,田代盆地西縁の地点が選ばれた。盆地なので沖積層が十分に堆積している。そして,田代盆地に降った雨は,この地点から冷川(ひえかわ)として流れ出している。かつても盆地の各所からの小川がここを流れていたはずである。北伊豆地震の時の記録,空中写真などから断層の位置を数mの精度で特定した。
そして,この調査のために新しい調査器材が持ち込まれた。先ほど述べたようにトレンチ調査では通常2つの断面が得られる。パワーショベルで掘られた部分の地層は当然のことだが破壊される。つまり,トレンチが大規模になるほど失われる地質情報も大きくなる。移動土量をいかに小さくするかが課題となる。堆積した地層を薄い板状に抜き取れないか。そんなアイデアから開発されたのが「ジオスライサー」である。長さ数mの鉄板2枚を組み合わせて地面に差し込み,引き抜くことによって,その名の通り大地をスライスしようというのである。抜き取る厚さは約10cm。トレンチ調査にくらべて格段に少ない土量で1枚の断面を見ることができる
(写真3
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口絵)
。間隔をあけて何枚も抜き取り,それらの断面を並べると,その場所の深さ数mにわたる地質を三次元で把握することができる。