話を現在に戻そう。冬空の下,田代盆地で調査している研究者たち。彼らはなぜ,20年近く前に活動歴が明らかになった活断層を,いま再び調査しているのだろうか。
丹那断層でトレンチ調査が行われた当時,活断層はほぼ一定の周期で繰り返し活動すると考えられていた。その後,全国各地の活断層で行われたトレンチ調査の結果も,この考え方に適合するものが多かった。しかし,最近になって,活断層による地震の発生間隔は,平均値の2分の1から2倍の間で変動することがわかってきた。仮に平均間隔が800年だとすると,実際には400年から1200年という大きな幅があることになる。これでは,ある活断層が近い将来地震を引き起こすかどうか予測するにしても誤差が大きすぎる。そこで,どのように地震が繰り返し発生するのか,そのモデルを確立することが求められている。発生間隔と断層のずれの大きさとの関係に着目すると,
の2つの仮説が考えられる。そして,もし後者であれば,前回の地震のときのずれ幅を調べることによって次の地震がいつ起きるのかおおよその予測が可能になる。このモデルが正しいかどうか検証するためには,過去の各地震の発生時期,ずれの大きさを正確に調べ明らかにしなければならない。
このような正確で詳細な結果が要求されるようになってくると,従来のトレンチ調査法では限界がある。トレンチ調査では,断層を横切るように溝を掘り,その両面に現れた地層のずれを観察する。つまり,情報源はたった2枚の断面である。しかも,丹那断層のような横ずれ断層では縦ずれ量は小さく,断面ですぐにわかる縦ずれだけから横ずれも合わせた全体のずれの大きさを知るのは難しい。したがって,三次元的な地質構造の把握が必要になってくる。もうひとつ,横ずれ断層としては中央構造線活断層系などが有名だが,これは横ずれ量が大きい。ある地層の続きが断層を挟んでどこにあるのか調べるのに,ずいぶん向こうまで掘って調べなければならない。その点,丹那断層は,調査するうえで適度な横ずれ量なのだ。