丹那断層で行われてきた最新の活断層研究

左ずれの断層

【図2 丹那断層付近の活断層分布】(再掲)

 地表に現れた断層のずれは,70年たった今ではほとんど痕跡が残っていないが,いくつかの地点では今も見ることができる。それらを紹介しておきたい。
 県道熱海函南線,通称「熱函(ねっかん)道路」で丹那盆地に入ると,「丹那断層」という案内板が目に入る。案内板に沿って盆地の底へと降りていくと乙越(おっこし)地区の丹那断層公園にたどり着く。ここでは地表の横ずれが保存されており,国指定の天然記念物となっている。ここにはかつて民家があり,石で囲んだ円形の塵捨場,石組みの水路,水田との間の石垣があった。それらを断ち切るように断層は動いた。塵捨場は真ん中で断ち切られ,一方の半円が2m余りずれた。水路や石垣も同様に断層を挟んで2m余り食い違っている (写真1) 。縦ずれ(地面の垂直方向のずれ)がほとんどなかったので,きれいに芝生が植えられた今では断層の位置はすぐにはわからないかもしれないが,石の並びが食い違っているところを結んでいけば,断層線をたどることができる。断層線を延ばした先に断層地下観察室がある。地表で石組みを食い違わせた断層のずれは,地下では地層の食い違いとして記録されているはずである。地下観察室は地面を深さ3mほど掘り下げてあり,底に降りて,壁面に現れた断層による地層の食い違いを見ることができる。

【写真1 丹那断層公園で保存されている横ずれの跡】

 断層はここからさらに先へと延びている。延長線上を目でたどると,小さな森の脇を通り,丹那盆地の北側へ達し,さらに田代盆地のほうへと延びているはずである。断層公園には丹那・田代周辺の地形を表した大きな立体模型もあるので,併せてご覧いただくとよくわかるだろう。
 田代盆地では,丹那断層は盆地の西端を通っている。言い換えれば,田代盆地と西側の山地との境界線が南北の直線状に走っているのは断層の影響である。その田代盆地の西縁に火雷(からい)神社がある (写真2) 。道路の脇に壊れた鳥居が立っている。北伊豆地震の際に被害にあったものだ。その向こうに石段があり,石段を登ったところに社殿があるのだが,ここでは鳥居と石段の位置関係に注目して欲しい。よく見ると鳥居は石段の真正面にはない。手前の鳥居に対して向こうの石段がやや左側にずれて位置している。昔からこうだったわけではない。実は,丹那断層によってずれてしまったのだ。ということは…そう,断層は鳥居と石段の間を通っているのである。丹那断層公園とならんで,ここも断層による横ずれがよくわかる場所として有名である。鳥居の近くの解説板に備え付けのノートには,ここを訪れた多くの人たちの名前が記されている。

【写真2 火雷神社に残る横ずれの跡】

⇒ 次のページへ  「トレンチ調査」


表紙に戻る