インド思想史略説−− タパス 3. タパス(苦行)

 古来インドを訪れる外国人の目を驚かすものに、苦行がある。苦行の原語はtapasで、「熱」を意味する。『リグ・ヴェーダ』では宇宙創造にかかわる「熱力」という意味で用いられた。後に断食に代表される肉体を苦しめる修行によって、この神秘的な熱力が獲得されるとみなされ、そのような行もtapasと呼ばれるようになった。これを得れば超人的な能力が実現できるとして、さまざまな苦行、難行が行われるようになった。ブッダの当時には、都市の近郊に苦行者の集まる苦行林が形成されていた。4)

 『ディーガ・ニカーヤ』(長部経典)「ウドゥンバリカー師子吼経」は、多種多様な苦行者の姿を伝えている。その中には奇異と思われるものも少なくないが、現代インドにおいてもなお、それらに似た苦行者が見られる。5)


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4) 苦行の思想には多かれ少なかれ、物質主義的な発想がはたらいている。例えば、ジャイナ教では、行為の結果生まれる業が心につく垢として物質的なものにみなされ、苦行によって体内に蓄えられる熱力が、これを浄化するとされる。谷川泰教「原始ジャイナ教」(『岩波講座東洋思想』第5巻)、1988年、77頁。【本文へ】

5) 野沢正信訳「苦行の否定」(『ブッダのことば I』講談社、1985年)277頁以下。【本文へ】