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実験指導書 592

「スイッチトキャパシタ回路」

Download : レポート表紙(2005.04.11

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1. 目的

実験によりスイッチトキャパシタ回路の動作を確認し,原理を理解する。


2. 背景

電子回路はIC化することにより高信頼化, 小型化ならびに低価格化が可能である。 従来のRLC回路をIC化するには,RLCをIC化する必要がある。 LはIC化が難しいため, 回路を工夫してRCのみで動作できる回路を設計する。 RはCと比べて高い精度のものがIC上にできないため, 完全モノリシックICを作る妨げになっている。
スイッチトキャパシタ(SC)回路は, コンデンサの電荷をスイッチで制御することにより抵抗と同等な動作を行わせ, これで従来の能動RC回路における抵抗部分を構成するものである。 従って,これまでに開発された能動RC回路の設計法がそのまま適用できる。 SC回路の最大の利点は時定数がコンデンサの面積比で決定されるので, トリミングなしに高精度回路を作れることである。 スイッチトキャパシタの原理は1968年頃に提案されていたが, 最近のMOS集積回路技術の発達によりその価値が高まり急速に実用化された。


3. 原理


(a)スイッチトキャパシタ

(b)通常の抵抗
図1

コンデンサとスイッチからなる図1の回路は, 次の様にAB間に接続された抵抗と等価な動作をする。 端子A,BにそれぞれV1,V2 が加えられているとする。 その時,まず切替えスイッチSがコンデンサCr をA側に接続して Cr の端子電圧をV1に充電する。 次にSがB側に切替わってCr の電圧はV2になる。 この一連の動作でAからBに流れた電荷は ΔQ=Cr (V1−V2) である。 従って,これを周期TS ごとに繰返せば,AからBに流れる平均電流は,
r =ΔQ/TS =Cr (V1−V2)/TS (1)
である。 この時,スイッチを駆動するクロック信号の周波数 fS =1/TS が回路に加える信号 V1,V2の周波数より充分高い場合には, 式(1)の平均電流はV1,V2の瞬時値に対して定常な電流になり, 等価的な抵抗
eq =(V1−V2)/ ir = 1/(CrS ) (2)
と置き換えて考えて良い。 この抵抗を,スイッチトキャパシタ等価抵抗と呼ぶ。
実際の回路では, スイッチはMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)で構成される。 一例としてMOSFETを用いたスイッチトキャパシタ等価抵抗と このアナログスイッチを駆動するための2相クロック信号Φ1 , Φ2 のタイミング図を図2に示す。

図2 スイッチトキャパシタ回路のスイッチを動作 (スイッチに供給されるクロックパルス)


4. 応用回路

図3(a)の積分器の抵抗Rをスイッチトキャパシタ回路で置き換えると, 図3(b)のスイッチトキャパシタ積分器が構成される。 この時,伝達関数 H(jω) は,
H(jω) = fSr / (jωCf ) (3)
と表わされ,積分定数は Cf / (fSr ) であり, 容量比と fS により決定される。MOSICを作る。 コンデンサ容量の比はキャパシタパターンの面積比で決定され, MOSプロセス技術で 0.1 % の高精度を有する。

(a)能動RC回路

(b)スイッチトキャパシタ積分回路
図3


5. 実験と課題

図3(b)の回路で実験する。 必ず課題を念頭に入れて, グラフを書きながら実験すること。

手順
  1. クロック発生回路を調整し,クロックの周波数を 20 kHz にする。
  2. 入力信号を 100Hz 〜 50 kHz の正弦波とし,周波数特性をとる。



課題
課題考慮すべきこと
課題1
周波数特性を両対数グラフに記録し, 能動RC積分回路の特性と一致する点と異なる点を指摘せよ。
ここでは,「指摘せよ」というだけなので, 特に考察する必要はない。
能動RC積分回路の特性と今回実験した回路の特性を同一グラフ上に示し, 両者を見比べて気づいたことを書けばよい。

なお,グラフを書くときには,意図を持って書くことが必要である。
「この実験結果は,〜の理論が正しいことを示す」 ということを結論にしたければ,同じグラフ上に, 「実験結果のプロット」と,「〜の理論による理論線」を記入し, その両者が近いかどうか議論する。 近ければ,正しいということが言える。 もし近くなければ,その実験からは〜の理論の正しさを確認できない。 (場合によっては否定してしまう)
課題2
fc/2 の周波数帯において積分器として働くことを確認せよ。
積分回路の特性ならば,入出力特性は両対数グラフ上で右下がり45度になるはずである。
  • 実験データをグラフにプロットすると,右下がり45度の直線上に乗っただろうか?
  • 図3(b)にある Cf の値と,(2)式から得られる抵抗値と,クロック周波数から 理論線を求めることが出来る。理論線と実験データはぴったりと重なっただろうか? もし重ならないとすると,差は常識の範囲内の差に収まっただろうか? (通常,抵抗値は1%,容量値は10%程度の誤差が見込まれる
課題3
入力信号 Vi , クロックΦ1 , Φ2 , 容量 Cr の端子電圧, 出力信号Vo の変化の様子をタイミング図に書いて示せ。
入力信号 Vi ,クロックΦ1 , Φ2 ,容量 Cr の端子電圧, 出力信号Vo の変化の様子をタイミング図に書く時は, 労力をけちらないことである。
少なくとも回路図を3つ書き直すべきである。 3つとは次の通り:
(1)Φ1 がonの時,
(2)Φ1 もΦ2 もoffの時,
(3)Φ2 がonの時
それらの場合場合について電流の流れ,電荷のたまり具合を見て行けば, 動作が自ずとわかるであろう。
なお,ここでは抵抗 RF は無視して (無限大であると考えて)けっこうです。

このタイミング図を描くことにより, サンプル&ホールド回路がそのまま存在していない回路なのに, 離散時間処理が行われることがわかるはず。
課題4
グラフ中に極大点,極小点があったならば,その周波数を表にせよ。
周波数 f の時の入出力特性 |Vo /Vi | と同じ大きさの入出力特性をもつ周波数は何 Hz か。
f =1kHz はどんな周波数か。
能動RC回路には最大点はないのだから, この課題で問題にしているのは「能動RC回路と異なる点」である。 それを表す理論は何だったか,先週の実験を思い出そう。 思い出すべきは「用語」だけではなく,「その意味」である。
極大値と一致するものはなんだろうか。

さて,ここで「極大」等を問うているが, 「実験的に見られた最大点」を「極大」とするようでは2流である。 今回使用するファンクションジェネレータは周波数は3桁しか指定できない。 しかし,もっと実験の環境がよければ,4桁,5桁まで指定できる ファンクションジェネレータを使える可能性がある。 しかし,現状でも,グラフをプロットしながら想像力を働かせば, 極大をもたらす周波数を,求めることが出来るはずである。
課題5
fc/2 よりも高い周波数の回路動作説明せよ。
DC〜fc/2 の周波数帯に関する入出力特性が既に求まっているのであれば, 前回の学生実験の知識(=離散時間処理回路の理論)によって, fc/2 よりも高い周波数における入出力特性は予想できる。
  • f [Hz] と同じ入出力特性が,n×fc±f [Hz] にも現れるはず。
  • ところで,今回の実験では fc の調整は, オシロスコープを見ながら手動で行った。 オシロスコープは一般的に 1% 程度の精度しか保障されないため, fc もせいぜい 1% の精度である。 どんなに注意深く 20 kHz に合わせた積りでも,実際の fc は 20±0.2 kHz の範囲と考えられる。 (いいかげんな実験ならズレは更に大きい)
課題6
図3(b)の回路の抵抗 RF (大きな抵抗:1MΩ程度以上) を接続してある。その理由を説明せよ。
F については,もしもop-ampにオフセット電圧があったとき, 非常に長い時間の後で出力電圧がどうなるか考えてみれば, 答えが見つかると思います。

以上.