8. 実践のための徳目ーー無執着

 安らぎへいたる正しい生活を送るために、どのような心をもち、どのように行動すべきかが具体的に説かれる。たとえば、名声・財産・食物・衣服・異性などに対する禁欲、あるいは嘘・怠惰・怒り・後悔など心を汚す行いを避けることなどであるが、これらを集約するものとして強調されるのが、「執着するな」ということである。

 執着は苦しみの主要な原因と考えられた。

 「世の中の種々さまざまな苦しみは、執着を縁として生ずる。」(Sn.1050.)

「無知なまま、執着する人は、愚か者で、くりかえし苦しむ。苦しみの生起のもとを観察した智慧ある人は、執着してはならない。」(Sn.1051.)

 執着とは「わがもの」という観念をもち、それにこだわることである。したがって、どんなものについても、「わがもの」という観念をもつことが否定される。

「(何かを)わがものであると執着して動揺している人々を見よ。(かれらのありさまは)ひからびた流れの水の少ないところにいる魚のようなものである。」(Sn.777.)

「世間における何ものをも、わがものであるとみなして固執してはならない。」(Sn.922.)

「何であれ、「これはわがもの。これはひとのもの」と思わない人は、わがものという観念を知らない。このような人は、「自分にはない」といって悲しむことがない。」(Sn.951.)

「無所有、無執着。それが(老いと死という激流に対して避難所となる)洲にほかならない。それを安らぎと呼ぶ。それは老いと死の消滅である。」 (Sn.1094.)


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