アナグリフ方式による地形の実体視


なぜアナグリフ方式なのか?

アナグリフ(anaglyph;日本語では余色立体視と訳される)とは,いわゆる「赤青メガネ」を用いて画像を立体的に見る方法です。 (子どもの頃の雑誌の付録などで,皆さん一度は体験されたことがあるのではないかと思います。)

人間が物体を立体的に見ることができるのは,1つの対象物を左右に数センチ離れた両目で見る際の見え方の違い(両眼視差)によるものです。 視点の異なる(左右それぞれの目で捉えた)2つの画像を脳で1つに合成することにより,立体感が得られるのです。
この原理を応用して,異なる視点で撮影された2枚の写真を左右それぞれの目で同時に見ることによって,立体感をもって見ることを実体視(立体視)と呼んでいます。

地形図の作成にあたっては空中写真が使用されますが,地形や建物の立体的な形状を把握するために実体視が行われています。空中写真はそのために,隣のコマと約60%オーバーラップするように撮影されています。
この空中写真の実体視という手法が利用可能であることを受けて,地理学では,地形判読の手段として空中写真の実体視が広く用いられています。 実体視による地形判読の手法は,研究上での利用のみならず, 高等学校の教科書でもしばしば紹介される など,地理教育においても導入されています。

実体視の方法には,文字通り右の目で右の写真を,左の目で左の写真を見る肉眼実体視のほか, 実体鏡という器具を用いる方法 があります。 しかし,肉眼実体視はできるようになるまで時間がかかりますし,どうしてもできないという人もいるでしょう。 実体鏡も用いた場合,肉眼実体視よりははるかに容易に実体視が可能になりますが,それでも筆者の経験上,実体視できるようになるまで時間のかかる学生もいます。 また,実体鏡は,簡易実体鏡でも購入費用が数千円かかりますので,一斉授業で利用するために数十台買いそろえるのは困難です。 このような問題から,空中写真の実体視は,多くの大学で地形学の実習(少人数での専門教育)の一環として行われている一方で,高等学校などの地理教育の場で実体視を実践するのは現実には容易なことではありません。 (実践されている先生方には,そのご努力に敬意を表します。)

そのような背景から,ここでご紹介したいのがアナグリフ方式による実体視です。 裸眼実体視とは異なり,大部分の学生が瞬時に実体視できます。 また,赤青メガネを人数分用意するだけで,全員同時に同じ画像を実体視することが可能になります。

パソコンを使うことによって,アナグリフの画像が簡単に作れるようになりました。 作成した画像をカラープリンタで印刷して,大きなポスターにしてもいいでしょうし, 教科書サイズくらいのプリントにして学生に配布してもよいでしょう。 また,プロジェクタを使ってスクリーンに投影することもできます。
赤青メガネは,簡易実体鏡よりもはるかに安価(1個100円程度)に入手することができます。 文房具店で厚紙と赤と青のセロファンを買ってきて自作してもよいでしょう。

アナグリフは異なる視点の2つの画像を1つのカラー画像に合成することにより作られます。 したがって,写真のカラー情報はある程度損なわれますが, 裸眼実体視のように2枚の画像を両目の間隔にあわせて横に並べる必要がなく,一度に広い範囲をカバーする大きな画像を作ることもできます。

アナグリフでは,赤青メガネさえ用意すれば,一斉授業に実体視を取り入れることができます。 また,教員自らがオリジナル教材を作成することも可能です。 したがって,実体視を授業の取り入れることがずいぶんと容易かつ効果的になるのです。


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