※以下の文章は,2005年当時の状況をもとに執筆したものです。現在では,地理教育におけるアナグリフの活用状況は変わってきています。ご注意ください。
アナグリフを用いた地理教育・研究についての文献リストをこちらに掲載しています。
日本でアナグリフ方式での実体視を授業に導入している学校は,まだ非常に少ないようです。 (授業への導入事例について情報をお持ちの方,ご教示いただければ幸いです。) インターネット上のホームページを検索すると,アナグリフを掲載している趣味的なページは多く見つけることができるのですが,教育や研究の分野では利用は広がっていないようです。
しかし,アメリカではアナグリフを教育に積極的に導入している例もあるようです。 ノースダコタ州立大学地学科では,地理学・地質学の授業でアナグリフを活用しています。
また,火星探査機にはステレオ撮影用のカメラが搭載されており,火星の地表の写真がアナグリフで公開されているほか, 関連した教育プロジェクトでは,アナグリフを取り入れた授業プランも作成・提供されています。
筆者は,2002年から勤務校における地理の授業にアナグリフによる空中写真の実体視を導入しました。 カラープリンタで印刷した空中写真のアナグリフ画像と赤青メガネを配布したところ,大部分の学生が即座に実体視することができます。地形図に関する授業では,立体的に浮き出た山の地形を見ながら,「高さの同じところを結んでいくと... こうやって等高線は描かれるのですね。」と話を進めることもできます。
アナグリフは,地形学習でも威力を発揮するでしょう。 高校の地理では,自然環境と人間生活との関わりの例として,扇状地の地形と集落の立地がしばしば取り上げられます。 しかし,扇状地という言葉は知っていても,実際どれだけの学生が地形をきちんとイメージできているのでしょうか。 ましてや,等高線の読めない学生に地形図から地形と集落立地との関係を読みとらせるなんて無茶な話です。 一見きちんと理解しているように見えて,実は「こういう地図のパターンだと扇状地で,だから集落は…」というテストのための模範解答の暗記的な理解しかできていなかったなんていう例に筆者は遭遇したことがあります。
地形図の読図ができなければ地形学習はできない… これでは困ります。 地形図に描かれた等高線から頭の中に立体的な地形をイメージできるという能力と, 地表空間上で地形を立体的にとらえ,その形態的特徴を知ったり,成因について考えたり,人間の暮らしへの影響を考えたりすることができる能力とは別物です。 たとえ前者の能力が完全には身についていなくとも,後者の能力を身につける学習は必要ですし,教員にはそのための工夫が求められます。 等高線が読める能力という従来の地形学習での前提条件を,空中写真やDEMによる陰影図の立体視は取り払うことができます。そして,アナグリフはその導入を非常に容易にするのです。