日本地理学会発表要旨集,57,pp.90〜91,2000
シンポジウム「GISは地理学にいかに貢献するか?」
佐藤 崇徳(沼津高専)
Takanori SATO (Numazu College of Technology)
キーワード : 海外地域研究,GIS,現地調査,インド
Keywords : Overseas Area Studies, GIS, Field Survey, India
地理学におけるGISに関する研究動向が,一般論的に可能性・期待を指摘するものから,より具体的な実証研究へと移ってきているなかで,これを海外地域研究に応用しようとする動きも出てきている。
海外地域研究においては,現地でのフィールドワークを中心とした調査には,時間・内容などの面で制約がある。このため,現地調査で収集した情報のGISを用いた整理・解析,GIS上での現地調査データと既存統計資料との総合的な分析が,研究の一層の進展につながると考えられる。
本発表では,インド地誌研究におけるGIS導入の試行事例を報告しながら,海外地域研究におけるGISの活用法について,検討していきたい。
海外地域調査にあたっては,諸処の制約から,フィールドワークで得られる情報には限界があるため,入手可能な統計資料を最大限に活用することが必要である。
インドにおいては,継続的に人口センサス(Census of India)が実施されており,最新の1991年調査の集計結果は,ディジタル・データでの提供もおこなわれている。総人口,産業別就業者数をはじめ,居住環境,経済活動,人口移動など幅広い項目が街区・村落単位またはdistrict(県に相当)単位で収録されている。これらをGIS上で分析することによって,インド全土における地域傾向の把握や現地調査をおこなう事例地域の位置づけが定量的に可能になる。
ただし,とくに発展途上国の統計資料を扱う際の留意点として,データの信頼性・精度についても検討しておく必要がある点を指摘しておきたい。
図1 Census of Indiaのデータをもと作成した電子アトラス
( http://geo.lett.hiroshima-u.ac.jp/~rcrg/database/india_census/ )
※ 現在のURLは http://home.hiroshima-u.ac.jp/rcrg/database/india_census/ です。
海外地域調査では多くの場合,時間的制約などから,限られた期間内に対象地域内で集中的な調査活動を展開することになるが,その際,地域全体を客観的な目で捉え,かつ様々な仮説を検証するのは容易ではない。現地調査で収集した情報をもとにGISデータベースを構築することにより,データの地図化や,地図画面を見ながらの個別データの呼び出しが可能になる。GISによる地図画面というインターフェースを通してのデータへのアクセスは,分析・考察を進めるうえで,大きな助けとなると考えられる。
図2 インド・R村におけるジャーティ・カテゴリー別の世帯分布
(現地調査より作成)
以上に報告したインド地誌研究におけるGIS導入の試行事例を通して,海外地域研究におけるGISの有効性がいくつか見いだされた。まず,入手可能な地域統計データをもとにGISで詳細な分布図を作成したり,空間的解析をおこなうことにより,現地調査ではカバーしきれない広範囲にわたる地域的情報を的確に把握することができる点が挙げられる。次に,現地調査データをGISデータベース化することにより,地図画面上でのデータの整理・分析が可能になる点である。現地での調査期間が限られており,ひとたび帰国すれば気軽に再調査に訪れることは不可能であることから,GISが思考支援ツールとして果たす役割は大きいと考えられる。
また,調査時にコンピュータを導入することによる効果も大きいと予想される。携帯型のパソコンを現地に持ち込めば,リアルタイムでの集計が可能になり,調査ミスの発見・防止に役立つほか,現地での簡単な分析の結果から仮説を導き,それを踏まえて調査内容をさらに深めていくことも可能であろう。また,GPS,リモートセンシング等との連携も,今後の現地調査のあり方を変えていくと思われる。