業・輪廻の思想によって、涅槃観も変化した。当初、涅槃は現世において到達されるものと考えられていた。しかし、業・輪廻の思想からいえば、涅槃は輪廻からの解脱を意味し、たとえこの世において涅槃に達したとしても、なお前世の業の果報としての身体は消滅していないから、真の意味の「消滅」とはみなされず、死において初めて実現されると考えられるにいたる。涅槃は死と強く結びつけられるようになった。そして、原始仏教の末期には現世において得られる「心身の残余のある涅槃」(有余依涅槃)と煩悩も身体もまったく消滅した死後の「心身の残余のない涅槃」(無余依涅槃)の二種に分けられるようになった。1)
1) 藤田宏達「涅槃」(『岩波講座東洋思想』第9巻)264頁以下。【本文へ】