現在、1990年の統計によれば、インドの人口 8億人のうち仏教徒は 0.71%である。その数は 0.48%のジャイナ教を上回っている。これは主として、階級差別に対する抵抗運動を指導したアンベードカル(Bhimrao Ramji Ambedkar 1893-1956)が推し進めたヒンドゥー教から仏教への改宗運動によるものである。
アンベードカルは、被差別階級に生まれたが、奨学金を受けてアメリカやイギリス、ドイツの大学で教育を受けた。いったんは役人となるが、不当な待遇を受けて辞職し、後に差別社会と戦う政治運動の指導者として活躍した。1947年インド独立後、新憲法制定議会に議席を得て、政府の法務大臣となり、憲法の起草に貢献し、被差別階級に対する差別を非合法化したが、1951年、政府内の非協力的な勢力への失望から大臣を辞職。1956年、ヒンドゥー教の枠内にとどまる限り、カースト制の厳格な階級差別から逃れられないとして、差別されている低いカーストの人々に呼びかけ、仏教への改宗を説いた。
これが支持されて仏教に改宗する人が増え、1930年代には全人口比0.1%であった仏教信者が、現在ではインド第 5の宗教勢力になっている。
参考文献:
山崎元一『インド社会と新仏教 アンベードカルの人と思想』刀水書房、1979年.
土井久弥『アジア仏教史 インド編 V インドの諸宗教』pp.224-231.