![]()
水滴落下のふるまいは,蛇口を通過する水の流量,蛇口の形状(特に口径),水の物性(粘性,表面張力,密度)などによって変化する。これらのうち,流量をパラメーターとした系の振舞が特に興味深い。そこで,水道の蛇口のかわりに,水圧・水温が一定で,流量を微小にコントロールできる装置を製作して,水滴の落下間隔をmsの正確さで測定した(測定装置の概念図)。最初の水滴(水滴1)が成長をはじめてから落下するまでの時間をT(1)と書くことにしよう。水滴1が落下した直後に水滴2が成長を開始し,時間T(2)後に落下する。こうして,T(1), T(2), T(3), ... を順次測定して得られた数列{T(n)}のことを時系列という。下図は,この時系列データの例である。

この例を見ると,数列T(n)は410msから420msの間の値をとることが多いことはわかるが,T(n)の関数形はさっぱりわからない。むしろ不規則にばらついているように見える。本当に不規則なのだろうか。このデータを,T(n)を横軸に,T(n+1)をたて軸にとって,n=1, 2, 3, .. について順次プロットすると次の図になる。

グラフにははっきりした「模様」が現れた。このことは,T(n)とT(n+1)との間に,何か関係があることを示している。このグラフにみえる模様は,T(n)からT(n+1)を決める「写像」と呼ばれるもので,時系列{T(n)}を決定するルールであるとも言える。このように,きちんとルールに従って決められている時系列が,一見でたらめで不規則に見えることもある。このように,比較的簡単なルールに従ってできる不規則性のことを「カオス」と言う。
ちなみに,不規則に見えるものを上と同様にプロットすれば,必ずはっきりした写像が見つかるとは限らない。抵抗を流れる電流の雑音を測定して再帰写像を描いてみると,次の図のようにぼんやりしたかたまりになってしまう。

この雑音は,簡単なルールにしたがってできているわけではないからだ。雑音はカオスではない。
戻る