ひとりごと9 「電磁気学について」

2008.1.30 佐藤 憲史

 

20074月から,電気電子工学科3年の電磁気の授業を担当している.

私が,電磁気学を初めて学んだのは,大学1年のときである.当時は,大学に教養部があり,1年前期で力学,後期で電磁気学の講義があった.豊田利幸教授の講義を受講したが,内容はほとんど思い出せない.電磁気学を10回程度の講義で教わるのであるが,話を聞いただけではほとんど理解できない.高校での授業のやり方との違いに戸惑い,確か,前期の力学は,単位が取れなかったと記憶している.後期の電磁気は何とか勉強して優の成績を取ったと思う.講義を聞いていても何のことかわからず,必死で教科書を読んだ.教科書といっても講義ではほとんど使わず,参考書として挙げてある程度だった.その本は,熊谷寛夫・荒川泰二共著,「電磁気学」(朝倉物理学講座5,1965年,朝倉書店)である.今でもたまに開くことがあるが,苦労して読んだことを思い出す.電磁気で最初に出てくる,静電気は,「最も退屈な部分」らしい.電荷,電場,電位の分布を求めること(具体的には,キャパシタの静電容量などの計算)が主な内容だが,問題が解けるようになるまで苦労した.この本の最後に,相対論の話が出てくる.相対論にはとても興味があったが,そこにいきつくまでに息切れしてしまった.相対論は,学部(理学部物理学科)で勉強した.

再び電磁気学の勉強をしてみて,学生時代によくわからなかったことが少しわかるようになった気がする.そのかわり,学生のときには気づかなかった疑問が,いろいろ湧いてきた.特に,磁場というものが何なのか,ということが,今でもよくわからない.歴史的には,電場よりも磁場の方がはるか昔から,人間に認識されていた.自然に存在する磁石を通して,磁力が実感され,方位磁石に応用されてきた.電場は負の電荷をもつ電子や正の電荷をもつ陽子という粒子が作る場である.しかし,磁場には,電子に相当するモノポールが存在しない.私は最近理解したことだが,磁場は電荷の運動によって生じる場であり,相対論的な効果を考えないと説明がつかないものである.基本的に存在するのは,電荷をもつ粒子とその運動である.運動がなければ静電場の世界であり,磁場は存在しない.磁石は運動していないが,それの源は電子のスピンであり,電子の回転運動が起源である.電子のスピンについては,朝永振一郎著,「スピンはめぐる」(中央公論社,1974年)があり,正月に読み直してみた.回転運動は難しいし,量子論が出てくると全くわからないことだらけだ.物が運動していると,相対論を抜きには語れない.相対論は物の運動速度が光速に近くなると見えてくるもので,日常の運動ではほとんど関係ない,というのは俗説であることが,以下に示すいくつかの本で指摘されている.

一昨年,特殊相対性理論について,わかりやすい本を見つけた.竹内建著,「数式いらず!見える相対性理論」(岩波書店,2005年)だ.タイトルどおり,数式をほとんど使わないで特殊相対論の本質がわかる本である.数式の代わりに,時空間を表すグラフを使う.相対論についてのいろいろな誤解も指摘されている.また,松田卓也・木下篤哉著,「相対論の正しい間違え方」(パリティブックス,丸善,2001年)もおもしろい.いまだに相対論を間違っている,と言っている人に対する反論が書かれている.相対論を間違いとする大学教授もいるし,相対論はインチキということを書いている本やウェブサイトがあることを知った.相対論には誤解はつきもののようで,上述の本はそれらの誤解をていねいに解きほぐしている.それが「正しい間違え方」というタイトルになっている.アインシュタインが100年ほど前に確立した相対論についての正しい理解は,いまだに難しいようだ.一方で,GPSの精度を上げるために,相対論による補正が行われている.

電磁気学は相対論を抜きには語れない.しかし,ランダウ・リフシッツの教科書(「場の古典論」,東京図書,1964年)のように,相対論から始めるのは初学者には無理だ.電磁気学には山ほど教科書があるが,最近,とても格調高い教科書を手に入れた.太田浩一著,「電磁気学の基礎I, II」(シュプリンガージャパン,2007年)だ.ある法則を誰が発見し,誰が定式化したか,克明に書かれている.過去の偉人の写真や肖像画も豊富に掲載されている.また,電磁気の本質が電荷と電流であり,電磁気的な力が近接作用であるという立場で貫かれている.もちろん相対論も随所に出てくる.ファインマンの教科書では,ローレンツ力を運動する電子列のローレンツ収縮から説明している(R. P. Feynman, R. B. Leighton, and M. Sands, “Lectures on Physics,” vol. II, pp. 13.6-13.11, Addison-Wesley Publishing Company, 1964).これには考えさせられた.その内容に納得いかないことがあり,卒研生とある実験をしようとしている.詳しくは,研究報告に書いた(沼津工業高等専門学校研究報告第42号に掲載予定).

磁場の全く出てこない電磁気学の教科書を作ってみようと思っている.スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルのみで電磁場を記述すれば可能であるが,もう少し工夫して実用性のあるものにしたい.そこで何らかの利点が生まれれば面白いのだが,今のところ,あまり展望がない.

 

 

過去の「ひとりごと」へは,ここへ.