ひとりごと8 「技能五輪について」

2007.12.27                     佐藤 憲史

 

200711月,技能五輪国際大会が,沼津高専周辺で開かれた.沼津高専そのものも会場の一部になった.体育館やグランドに建てられた大型テントが,競技会場として使われたのである.競技は,他に国産電機や門池公園周辺にある多数の建物,テントを使って行われた.これらは,高専から歩いてすぐのところにあり,1115日から18日までの大会4日間は,競技関係者や見学者で人があふれた.報道発表では,アビリンピック大会と合わせて,29万人の見学者があったということである.外国人も多く,このあたりではめったに見られない風景がくりひろげられた.高専では,技能五輪に合わせて,高専紹介や学科展示,学生による高専祭が開かれ,大勢の見学者を受け入れた.私は,学科展示の責任者ということで,4日間,学校に出た.合間を縫って,一通り競技を見学した.技能五輪という名前は知っていたが,実際に競技を見るのは初めてであった.スポーツならオリンピックはじめ,競技として見ていておもしろい.しかし,技能五輪の競技は見ていておもしろいというものではない,というのが率直な感想だ.だいたい,その国の文化や歴史が色濃く反映する技能を,競技にすること自体難しいのではないかと思う.職種がいろいろある中で,競技になっているものは限られている.それをどういう基準で選んで競技にしているのかと考えても,よくわからない.競技種目を見て,これは,ヨーロッパ的な発想の競技だと直感した.例えばドイツにはマイスター制度があり,職人を大事にしている.また,ヨーロッパは技術の標準化に熱心である.技術,技能というものの基準や優劣をはっきりさせることを,重要視している.スポーツで言うと,フィギアスケートや体操競技のように,基準を決めて点数で優劣を争うのと似ている.技能五輪の歴史などひもとくと,もう少しはっきりするかもしれない.旋盤,抜き型,溶接,れんが積みやタイル張りなどは,かなり歴史のある技能で,道具は違うだろうが,産業革命以前から存在している.ウェブデザインや移動式ロボット,情報ネットワーク施工などは,つい最近の技術だ.このような競技がいろいろ混ざっている.見学者に人気があったのは,洋菓子製造やフラワー装飾だった.フラワー装飾の会場では,若い女性が草花を飾る作業をしており,きれいな光景だった.ただし,見学者が多く立ち止まらないように指示され,ゆっくり見ていられない.

自分になじみのある「情報ネットワーク施工」も見学したが,みな同じような配線をしており,優劣はその特性を評価しないとわからないので,おそらくそのような評価をするのだろう.会場内では,NTT西日本の方が光ファイバに関して説明していたが,わかりやすかった.しかし,他の会場では,そのような解説はあまりない.広い会場の壁際に設置された通路を歩きながら,競技者の動作を見ていくしかなく,何を競っているのか,よくわからないという状況だった.ともかく,世界中から集まった選手が真剣に仕事に打ち込んでいたという印象は,強く残った.後で,NHKテレビで放送された番組で,競技内容や日本人選手の活躍を知った.競技中に,テレビでもっと放送してもいいのではないかと思う.会場には,小中学生,高校生の見学者が大勢いた.わが高専生も見学をした.いろいろな職業を見学できたことは,貴重な体験だったのではないか.

今回,技能五輪の選手資格が22歳以下ということを,初めて知った.大学を出たものは,技能五輪の選手にはなれない.たいていは,各企業が,高校出て就職した社員の中から選抜して選手を養成しているようだ.韓国は国をあげて選手養成を行っており,今回,メダル獲得数で1番だった.日本は47職種のうち46職種に51人の 選手が参加し,金16,銀2,銅3のメダルを獲得,金メダル数は世界一だった.約1/3の職種で金メダルを取ったことになる.過去にはもっと取っていたようだ.日本人の技能の高さがわかるが,最近は,韓国,中国へ技能,技術,また,それらをもとにした製造業が流出しており,これからを危ぶむ声も聞かれる.産業の空洞化」がいわれ,「ものづくり」の大切さが強調されている.しかし,日本の産業は,第3次産業化しており,6割強の人がサービス業に従事しているといわれる.アルビン・トフラーが「第三の波」で述べたように,先進国の産業構造は第3次産業化している.製造業は必要不可欠で産業の基礎だが,それが主体ではなくなっている.レストランサービスやウェブデザインの種目は,明らかにサービス業に関するものだ.ウェブデザインや移動式ロボットなど,現代的な技術で活躍すればよいような気もする.技能五輪が,そのような現代的な技能を取り入れて競技にしているところに工夫があるし,大会存続のための模索もあるのではないか.

 

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