ひとりごと41  「論理的思考力」

2015. 9.17  佐藤 憲史

日本物理学会が発行する雑誌「大学の物理教育」に,松川宏氏の「『きはじ』と論理的思考」pp.50-51, Vol.21, No.2, 2015という記事があった.「きはじ」とは,距離(き)・速さ(は)・時間(じ)の関係を示す簡単な図で,それぞれを他の要素から計算するときに使う.ウェブで検索すると図やら解説がたくさん出てくる.このような公式暗記型の学習法では計算できるようになっても本当に理解できていると言えるのか.教科書に出てくる数式を「何の疑いも抱くことなく受け入れ」満足する学生が多く,論理的な思考が欠如していることが指摘されている.確かにそうだ,実験レポートでテキストにある理論を書いてくるが,その意味が解っているか問うと怪しい場合が多い.「きはじ」は一定の速度の場合では使えるが,加速度があると使えない.速度が刻々変化するときはどのように考えればいいのかと疑問を持てばいいのだが,速度の概念ができていなければそのような考えも出てこない.疑問を持つということは「わからない」と自覚することであり,ソクラテスの「無知の知」を思い出す.世の中はわからないことで満ちており,教科書に載っていることは限定された条件のもとで成り立つ理想的なお話だ.お話でも実験的な裏付けがあり,実際に使えるので生き残っている.そのような経験を積みながら学習すればよいが,学生には学ぶ科目が多く,ともかく単位を取ることで精いっぱいになっていることがしばしばである.

教える立場で,論理的思考力を高めることは難しいと感じている.「きはじ」のような公式を示して問題を解かせるやり方がやりやすい.定期試験では過去問を公開しており,問題のパターンはそれほど変えられない.基本的な練習問題の解き方を示し,ちょっとだけ条件を変えた問題を出すが,それもままならないことがある.論理的思考力以前のレベルであり,勉強不足がある.授業をやっていて,何を問題にしているのか,問いかけをしながら話すようにしているが,手ごたえはあまりない.意識的に疑問を言葉や文章にして,もっと質問するように言っているつもりだが,状況はあまり変わらない.たまに学生から質問を受けたときには,そのように考えるのかと感心させられることがある. 論理的思考力を高めるには11の対話形式が有効であり,講義形式には限界があると思う.そこで今はやりのアクティブラーニングがでてくる.アクティブラーニングとは,学生の事前学習を前提に,議論や演習を通して学生が主体的に取り組む学習であり,知識や公式を詰め込む方式からの脱却といえよう.しかし,学生が主体的に取り組むようにするにはどうしたらよいのか,という問題の堂々巡りに陥りそうである.

「何かを理解したい」,「学びたい」という根源的な欲求は,裏返せば「なぜそうなるのか」,「それはどういうことか」,といった疑問をもつことに基づいている.疑問を持つことを大切にすることが,論理的思考力を高めるために重要ではないか.

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