ひとりごと39  「ノーベル物理学賞」

2014. 12. 26  佐藤 憲史

 

今年のノーベル物理学賞は,青色LEDを開発した,赤ア勇氏,天野浩氏,中村修二氏の3名が受賞した.3氏ともお会いしてお話したことがあり,受賞は感慨深かった.赤ア勇氏については名古屋大学教授であられた頃,私の博士論文の指導をしていただき,ひとかたならぬお世話になった.1990年ころから青色LEDの研究開発をそばで見てきた.青色LEDが製品化され,信号機や電球などへの応用が広がった.私は光ファイバ通信関係の仕事だったので可視光のLEDやレーザには直接関わっていなかったが,素晴らしい成果が日本から発信されているのを実感してきた.この分野を知る人の多くが,日本人のノーベル物理学賞受賞を期待していた.それが現実になって,また,直接お会いした方が受賞して感慨ひとしおである.

青色LEDができるようになってRGB3原色がそろい,人間が見ることができるすべての色を合成できるようになった.しかし,「電球(白色光源)もできるようになった」,というのにはちょっと誤解がある.LED電球は青色LEDに黄色い蛍光塗料を被覆して白く見せているのであり,RGB3原色LED(赤,緑,青の3つのLED)はディスプレイの応用では必要だが,白色光源には必要ない.あるいは,3原色LEDによる電球は高い照度を出すのが難しく高価である.「なぜ赤色LEDで白色光源ができないか」,それを学生に問い,宿題にした.

青色LEDによる白色光源は照明用として2008年ころから製品化されていたが,高価でなかなか普及しなかった.電力から可視光への変換効率も蛍光灯とそれほど変わらなかった.その変換効率は数年前20 %程度で蛍光灯並みであったものが,現在では40 %程度と飛躍的に上昇した.蛍光灯に代わる照明として確信が持てるようになってノーベル賞受賞が決まったと報じられているのには,同感である.

赤ア先生は,GaNという材料を追及していて何ら迷いはなかったと述べられている.世界中で研究開発がなされていたが,3氏を中心とする日本がリードできた要因は何か?将来本命となる技術が何か,後から言うのは簡単だか予想するのは難しい.失敗を恐れず挑戦し続けることが創造への道であり,3氏のノーベル賞受賞が我々に勇気を与えたことは間違いない.

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