ひとりごと34  「携帯とドーパミン」

2013. 4. 15.  佐藤 憲史

 

道路を歩きながら携帯を見ている人や,自転車に乗りながら携帯する人が,ふしぎでならない.その謎が少しだけ解けた.携帯やスマートフォン,パソコン,ゲーム機など,現代の技術が生み出した装置が,dopamine-delivery devicesとして機能していることが,Kelly McGonigal氏の本,”The Willpower Instinct” (Avery, 2011)に出てくる.パソコンや携帯は,インターネットに接続されることで無限の可能性を持つような幻想を抱かせる.ときどき,メールが飛び込んでくる.ネットで検索すると,あふれんばかりの情報がでてくる.指でクリックすると,画面が変わってそれが目に写り刺激が脳に伝わる.脳内ではドーパミンが放出されており,その刺激が快感となっている.そして,やめられなくなり脳の依存症が起きる.ざっとそのようなことが述べられている.酒やタバコといったものへの依存症はあるが,マナーがある.歩きながらのタバコはいただけない.煙をまきちらし他人に害を及ぼす.歩きながらの携帯は,交通事故につながることもあるが,依存症まるだしで恥ずかしくないのだろうか.いや,依存症に陥っているという自覚がないのかもしれない.ある授業を参観したとき,休み時間になると何人かの学生はすぐスマホを取り出し,クリックしだした.その姿は何かに取りつかれているようでもあった.喫煙家がタバコを吸える場所にいそいそ駆けつける姿に似ていないこともない.多くの高校では始業から終業まで携帯の電源を切っておくことが決まりになっている.ドーパミンは意欲や学習に関係する神経伝達物質で,それ自体は必要なものだろう.指でクリックすることで画面が変わり,脳が活動してドーパミンが分泌される.やる気が出て次々と画面を追う.問題は,他の知的な活動が疎外されることだ.携帯やパソコンでネットに入り込んでもそれだけでは生産的なことは何もない.本を読んでも同じかもしれないが,マンガや週刊誌は別にして,少しは知的な活動になる.目的意識や将来への関連性が問題なのかもしれない.若者の学力低下がいろいろなところで議論されているが,パソコンや携帯の影響がかなりあるのではないかとにらんでいる.指でクリックすることに時間を取られ,じっくり読書する,思考するということが減り,それで論理的な思考力などが低下しているのかもしれない.

私は普段,携帯を持たない.プライベートではパソコンや携帯は見たくない.ただ,暇な休日はパソコンでニュースを見たりゲームをしたりする.しかし,空しい時間が過ぎていくようで熱中はできない.仕事ではパソコンは必須で,メールで仕事が降ってくる.職場では,机の真ん中にパソコンがあり,メールのチェックから仕事が始まる.ちょっと時間が空いたときに,メールの受信ボタンを押している自分がいる.仕事で仕方なく使っているつもりでいたが,私も依存症に陥っているのかもしれない.思い切ってパソコンを机上から追いやった.といってもすぐ脇にあるテーブルの上に置いた.電話はかなり前からそのテーブルに置いている.パソコンや電話を脇に追いやり,本やノートを開いてじっくり考えるようにしよう.

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