ひとりごと32  「怒りについて」

2012. 12. 25.  佐藤 憲史

 

 

三木清の「人生論ノート」に,「怒について」という一節がある.そこれを久しぶりに読んだ.

年末の終業式に後ろの方でゲームをしている学生がいてどなった話や,卒研生を叱った話など,年輩のある社会科学者に話したら,「それは教育ではない」と一喝された.どなったり威嚇しても空しいだけだとわかっているが,つい大声をあげてしまう.学生に対してだけでなく,職場の方にもどなった場面があった.逆に「不愉快だ」,「何も分かっていない」,などと非難される場面もあった.争いごとは好きではないし,やりたくない.しかし,「すべての怒は突発的である」(三木清).気分で怒っていることもあるし,冷静な判断を欠いていることもある.「人は軽蔑されたと感じたとき最もよく怒る」(三木清).学生に馬鹿にされたように感じた時,怒ったこともあった.上司から駄目だしされてかっとなって反発もした.

それらと似ているが,自分の信念,考えが否定されたとき,怒ってとっさに反発する.「実験レポートでは他人の図面など使用してはならない」と言っているが,ウェブなどから電子データで拝借した図面を使う学生が後を絶たない.この前そのようなことがあって,学生を尋常でない言葉でどなった.卒研生が前に教えたことを,また聞いてきた.「私は同じことを2度は教えない,ボケっと聞いているからそうなるんだ,忘れそうならノートを取れ,お客様気分で研究をやっているんじゃない」と言ってどなった.スポーツでは監督が厳しく指導することがある.怒ることとは違う叱咤激励があってもよい.それで学生が成長すればよい.ただし,教育的ではないと思うことも多々ある.どなったり,処罰を与えれば学生が反省して変わるというほど単純ではない.自分のやったことを認めようとしない学生もいる.前述した社会科学者は,「唯一変わるのは人間だけだ」ということから死刑廃止論まで人間社会の進歩を話してくれた.恫喝や処罰による恐怖でなく,相手を納得させることが重要だが,それが難しい.年を重ねてシニアなのだから大声立てずに穏やかに行きたいものだ.怒ることは寿命を縮めているような気がするので,笑い飛ばすようにしたい.

 

「怒を避ける最上の手段は機智である」(三木清).囲碁はその訓練になっている.自分の陣地と思っている所に土足で入られてもあせらず,反撃の糸口を見出さなければならない.

「孤独の何であるかを知っている者のみが真に怒ることを知っている」(三木清)

 禅問答のような三木清の文章を読んでかみしめている.

 

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