ひとりごと31  「ドラッカーを読む」

2012. 2. 26.  佐藤 憲史

 

19世紀から20世紀にかけて,世界でもっとも影響力をもった思想家の一人はマルクスだろう.大学生のころ,マルクスの「資本論」を読もうと挑戦したがすぐに挫折した.「20世紀最大の知の巨人はドラッカーである」,というのを聞いたことがあるが,私はこれまでドラッカーを読む機会なくやってきた.「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」などで有名になったが,マネジメントなどにあまり関心がなかった.英語本の読書を継続している中でドラッカーの本[1]を入手し,読み始めた.マネジメントに関するビジネス書かと思いきや,社会をどうとらえるか,未来はどうなるかということに関する深い洞察があった.

挑戦的な質問と常識を覆す独自の理論がある.例えば,What will future historians consider the most important event of the twentieth century?” Drucker”the demographic revolutions” をあげる.20世紀の始まりには労働人口の90%が農家や工場などの肉体労働者だった.それが20世紀末にはknowledge work(知識労働)へ転換しつつある.農業などの第一次産業の経済に占める割合は数%まで低下している.製造業は同じような運命をたどる.これからは,すでにアメリカではそうなっているように,知識労働が主体になる.知識労働者は高等教育を修了した専門家で,知識を生産手段とする新種の資本家である.知識経済はボーダーレス,すぐに広まり,上方への移動可能性,競争性(成功と失敗)をもつ.教育は知識労働者を育成する産業であり,教育と医療がますます大きな産業になっている.トフラーの「第3の波」にもあったように,先進国では,第3次産業であるサービス業が製造業よりも主要になっている.Druckerはサービス業とは言わず,知識労働と言っている.これまでの経済至上主義から,組織から構成される社会が重要になる,マネジメントはビジネス界に限らず組織社会における重要な機能である,など,むむっと考えさせられた.私の乏しい読書の中から,マルクス,ガルブレイス,トフラーと,ドラッカーが,「ポスト資本主義社会」ということで結び付くように思われる.それ以上の分析はできないが.

文献[1]にはマルクスの「資本論」も話に出てくるが,「資本論」よりずっと読みやすい.「資本論」は学術書の体裁で難しいが,ドラッカーの本はわかりやすい教本のようで,原書でもなんとか読める.マンガで解説した本もあり,ドラッカーの教えが広く普及している理由を何となく理解できる気がする.

参考文献

[1] Peter F. Drucker, “Management,” revised edition, COLLINS BUSINESS, 2008.

 

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