ひとりごと29  E = mc2について

2011. 9. 1.  佐藤 憲史

 

上式はアインシュタインの相対性理論において導出されており,世界一有名な式とも言われている.質量に光速の二乗をかけたものがエネルギーに等しい,と読める.いくらかの質量があるとそれは莫大なエネルギーを持っており,原子力発電や原子爆弾の原理のように考えられている.この見方には,誤解があることが指摘されている [1].核融合や核分裂において莫大なエネルギーが発生するが,そのエネルギー変化DEによって,Dm = DE/c2で与えられる質量の変化が起こる.核反応で発生するエネルギーが大きいのは,E = mc2で与えられるエネルギーが大きいためではなく,核内の結合エネルギーが大きいためである.石油を燃焼させるとCO2H2Oと熱エネルギーが発生するが,このとき,CHなどの元素が酸素と結合することでエネルギーが変化し,熱エネルギーが発生する.原子同士の結合エネルギーに比べ,核内における陽子や中性子の結合エネルギーはきわめて大きい.それが本質であり,E = mc2 (Dm = DE/c2)は副次的な結果である.原子核は極微小であり,そこで働く力は,重力や電磁力など我々が現実に感じることのできるものとは全く異なり,及ぶ範囲は狭いが巨大である.結合エネルギーが大きいということは,結合状態が極めて安定であることにつながる.ところが,自然崩壊を起こす原子核が存在するのはどうしてか.地球を含む太陽系が誕生した過程で不安定な原子核が発生し,取り残され偏在したのだろうか.太陽はあと50億年も核融合を継続する天体であり,地球に核分裂を起こす原子核がいくらかあっても不思議ではないような気がする.石炭や石油は,地球の変動と生物の進化の過程で蓄積された産物である.核物質も地球の産物である.それらを利用するのは人間ならではの行為であり,止められない.パンドラの箱を開けてしまった以上,そう簡単にふたをすることはできない.人間は火を使うことで他の動物より優位に立ち,石炭や石油を使うことで産業革命を起こした.石油の利用は地球温暖化という問題を誘発し,核物質の利用は悲惨な戦争や事故となった.しかし,原子核や遺伝子など科学技術がもたらした知見を利用するのを止めることはできないと思う.それが進歩につながり,人間社会が繁栄と豊饒に満たされていくかは別だが.

私は,原子核の分裂や融合など,そこまで手を出さなくともやれることはたくさんあると思っている.水素原子Hが陽子1個からなる原子核と電子1個でできているが,この状態を量子力学により理解することはそれほど簡単なことではない.さらに複雑な原子やそれらの集合体としての物質,また,様々な粒子や電磁波で満たされた空間など,地球上で起きている現象は,原子核の反応も関係するが,もっと多彩で多様である.そのような分野に目をやっていると,原子核内部のことにはなかなか理解が及んでいかない.

相対論は,宇宙や高エネルギー現象だけでなく,電磁気や原子の性質にも関係するし,何とか理解しようと努めてきた.しかし,E = mc2が相対論でどのように導出されるか,その式の意味はどういうことか,大学で学んだ内容だがぼんやりとしか思い出せない.仕方なく昔読んだ本をめくる.文献に挙げた「数式いらず!見える相対性理論」は,その題にあるように,数式を用いないで,グラフで特殊相対論を理解できるおもしろい本だ.この本にあるE = mc2の説明を簡単にすると,以下のようになる.静止したボールに力を加えある速度にする.ボールと同じ速度で移動する慣性系からまた力を加えて速度を増す.これを際限なく繰り返すと速度は光速という極限になる.このときの運動エネルギーは,ニュートン力学ではmc2/2であり有限である.ところが,ボールに加えられた仕事の和は発散してしまう.そこで,運動量やエネルギーが相対論的に修正される.例えば,運動量は,P = mv/(1-v2/c2)1/2,エネルギーは,E= mc2/(1-v2/c2)1/2となる 途中だいぶ端折ったが,あまりうまく説明できないのでこの辺にしておく.他の本やウェブを見ても,直感的に納得できる説明は見当たらない.一般相対論については,学生のころから何とか理解したいものだと思ってきたが,最近,良い本[2]が出版され,学び直している.

[1] 例えば,竹内 建,「数式いらず!見える相対性理論」,2005年,岩波書店.

[2] 須藤 靖,「一般相対論入門」,2005年,日本評論社.同じ著者による「もうひとつの一般相対論入門」(2010年,日本評論社)では,テンソルの説明など補足されている.

 

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