ひとりごと26  「再び地球温暖化論について」

2010. 8. 20.  佐藤 憲史

 

「ひとりごと23」で,私は,地球温暖化論に懐疑的になっていることを述べた.ところが,今年の夏はひどい猛暑で,地球温暖化していくと大変だ,どうにかならないかという思いに駆られている.地球温暖化については,いろいろな説がある.「温暖化ではなく今後10年以内に寒冷化に向かう」という説があるが,多くは,温暖化の原因についての諸説である.つまり,20世紀から21世紀にかけて温暖化しているのは,人間活動で排出される二酸化炭素が温室効果ガスになるのが原因であるという説に異論を唱えている方がいる.地球の気温と二酸化炭素の濃度が上昇していることは,科学的なデータがあるので間違いない.そこにもデータの一部改ざんなどの疑念があるようだが,気温と二酸化炭素濃度の上昇は起きており,産業革命後に変化が急激である.そこで,「二酸化炭素濃度の上昇が気温上昇を引き起こしている」という説が有力になっている.それが正しいかどうかは,そう簡単ではない.コンピュータでシミュレーション実験が行われている.この場合,どのようなモデルをたててどのような条件を与えるかで,結論はどうにでもなる.コンピュータでシミュレーションして天気予報を出しているが,そのままあてにならないのと同じようなものだ.例えば春ごろの予想では,今年は冷夏になるというものであった.「二酸化炭素原因説」は「天動説」という可能性もどこかでありうるな,というのが私の「懐疑論」であり,多くの人が唱えているから正しいとも限らん,という程度のものだ.地球温暖化論を自分で検証していないし,温暖化対策が進展するどころか逆行していることに対するいら立ちがある.

「二酸化炭素原因説」に異論を唱える多くの者は,温暖化を非人為的な原因から起こる長期的な気候変動としてとらえており,人間の力ではどうしようもないと考えているようだ.そのような方から,当然のことながら,「現在行われている温暖化対策が無意味である」ことが主張されている [1].二酸化炭素の排出量を減らしてもほとんど影響ないというのであるが,それをやってみてどうなるか.そもそも,二酸化炭素の排出量を減らすのは,化石燃料がなくならないと実現しそうにないが.その場合は,これからの気温上昇が予想と合うか見ればよい.いずれにしても,結論は100年単位で見ないとわからないだろう.

このままいくと100年後に気温が6 ℃程度上昇するという予想がある.これについて,あるテレビ番組である識者が,「地球の平均気温は15 ℃だから,40 %も上昇する」と言って驚いていた.摂氏温度で比べるのはおかしいが,絶対温度で比べてみると,2 %の上昇になる.2 %の上昇というのは,地球大気のエネルギー増大にしたらどうなるか,すぐには計算できないが,莫大であろう.気温が上昇して地球環境がどのようになるか,いろいろシミュレーションがある.一方で,寒冷化するよりはずっと良いという説もある.

温暖化対策は,遅々として進んでいないように見える.人口が増え,GDPが増えるということは,二酸化炭素を増やすことになるので,GDPを減らさなければいけない.日本の経済成長がマイナスになれば喜ばなければいけないが,そんなことを言う方はあまりみかけない.日本の政界・経済界の方や識者は,「二酸化炭素を削減してもGDPを増やす」手段があると言うだろう.それが,原子力発電や太陽光発電,電気自動車などであると.「二酸化炭素原因説」に異論を唱える方は,これにも議論を展開している.そのような方にとって,二酸化炭素を減らすこと自体意味がないのであるが,「原子力発電や太陽光発電が二酸化炭素を減らすことにもなっていない」と指摘する.「地球温暖化キャンペーンが原子力推進のために使われている」と.原子力発電システムの製造・設置・維持にも化石燃料が大量に使われている.海水を冷却水に使うので海水温を高め,海水からの二酸化炭素発生を高める問題もある.また,核廃棄物処理や事故のリスクを考慮しないといけない.太陽光発電でも,その製造に化石燃料が大量に使われている.そこで問題は,エネルギー収支,生産されるエネルギーに対して,投入されたエネルギーの割合,である.太陽光発電では,12年運転すればエネルギー収支が黒字になるという.しかし,その根拠を書いている文献[2]を読んだが,あきれた.太陽光発電で得られるエネルギーの計算が全くの理想的な仮定に基づいており,実際に報告されている量の4倍程度になっていた.つまり,エネルギー収支が黒字になるのは6年程度となった.それでも6年以上運転すれば二酸化炭素の削減効果があるように思える.ただし,太陽光発電ではコストが問題だ.現状では,補助金制度や電力買い取り制度がないと,元は取れない.経済的に成り立たないというのは,広い意味でエネルギー収支が赤字ともいえる.太陽光発電はバラ色ではなく,水力発電程度に普及できるかどうかの瀬戸際に立っている.現在,太陽光発電で得られている電力の割合は,0.2 %にすぎない.普及するためには,変換効率の改善とコスト削減が不可欠であり,そのための技術開発が世界中で行われている.それを鼻から無意味といわれるのは釈然としない.原子力発電でも二酸化炭素削減効果は,宣伝されているほどではないにしろ,あるのだろう.廃棄物処理などを含め,技術開発がおこなわれている.電気自動車の宣伝で,当初は,「二酸化炭素を出さない」と言っていたが,最近は,「運転中は」と断りを入れている.電気を火力発電に頼っていると本質は変わらないのである.

化石燃料を使わないエネルギーシステムに切り替えるには大量の化石燃料を使うのであり,温暖化対策を推進して二酸化炭素を増やすという矛盾に陥ってはいないか.それは過渡期としては避けがたい現象であり,化石燃料が枯渇するまでどうしようもない気がする.そうすると温暖化が今後どんどん進むのか,私が生きているうちに結論が見えてくるだろうか?

 

[1] 例えば,http://env01.cool.ne.jp/index02.htm

[2] 和田木 哲哉,「爆発する太陽電池産業」,p. 19, 東洋経済新聞社,2008.

 

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