ひとりごと23  CO2と地球温暖化」

2010. 5. 30.  佐藤 憲史

 

 

太陽光や風力など自然エネルギーによる発電では,CO2削減効果が大きいことが大々的に宣伝されている.これは,原子力発電でも言われている.「石油を大量に使っていることで大気中のCO2濃度が増えて地球温暖化が起きる」ということが,大きな問題となっている.その対策として,太陽光発電や原子力発電が有効になるという.いずれ石油がなくなるので,主役交代は起きる.それがいつになるかということが,はっきりしない.しかし,地球温暖化の方は,何か近い将来大変な問題を起こすように思われている.南極や北極の氷が溶け出しているとか,モルディブでは海面上昇で国土が消滅する危機にあるとか,待ったなしのように言われている.鳩山政権は,2020年までに,1990年比で25 %CO2を削減するという.京都議定書で2012年までに6 %削減と約束したことが達成できないどころか,逆にCO2排出量が10 %程度増えている(ウェブ情報)のに,よく言えるなと感心する.これに,かみついている論客が多数いる.最近,武田邦彦氏の著書,「CO225 %削減で日本人の年収は半減する」(産経新聞出版,20102月)を読んだ.「CO2濃度が増えて地球温暖化が起きる」ことや,「地球温暖化」そのものに疑問を投げかける議論があることは知っていた.書店には,「地球温暖化のウソとワナ」とか,かなり刺激的なタイトルの本が並んでいたが,これまでは,そういうものは無視してきた.ところが,今年4月,日本物理学会誌に,「原因は気温高,CO2濃度増は結果」という,槌田敦氏の記事が掲載された.この記事は,CO2濃度が増えたことで地球が温暖化しているのではなく,因果関係は逆であるということを述べている.「地球温暖化の科学-遅れて来た懐疑論の虚妄と罪」という,阿部修治氏の記事と併載であったが,両方を読み考えさせられた.そこで,上述した武田氏の著書にも触手が伸びた.

CO225 %削減」というのは,政治的,経済的な政策だ.エコポイントやエコカー減税などは,景気を刺激する効果はあるが,CO2削減効果はあるのか疑問である.それどころか,景気が良くなってGDPとともにCO2を増やすのではないか.「CO225 %削減」が本当になったら,武田氏が指摘するように,日本人の年収が半減して日本経済も破たん状態になるだろう.しかし,そんなことを心配する前に,国の財政が破たんしていることを心配すべきだ.第一,京都議定書の約束も実現できないのに「CO225 %削減」などできまい.脳天気な話か,あるいは,いろいろなねらいをもったアドバルーンと考えるべきだ.

20世紀の科学技術による進歩に疑問を投げかける知識人に,「CO2濃度が増えて地球温暖化が起きる」ことは,大きな魅力を持って受け入れられたのだろう.私は,知識人というのはおこがましいが,大量生産,大量消費の社会に疑問を抱き,「CO2削減」には賛成であった.しかし,「地球温暖化」そのものを含め,検討すべきと思う.昨年暮れのCOP15でも,合意は得られずに終わっている.私は懐疑論に傾いている.

武田邦彦氏の著書,「CO225 %削減で日本人の年収は半減する」で,納得いかなかったことを一つ記す.「森林はCO2を吸収しない」(84ページ)という記述がある.しかし,それはどうか.植物が光合成によりCO2C O2に変換するが,最後はCO2に戻るのでCO2を吸収するわけではない,という論である.しかし,森林が増えればCO2C O2に変換する能力(レート)が増えてCO2濃度は減ると考えるのが自然だ.CO2濃度が減ると生存可能な植物も減ってもとの黙阿弥かもしれないし,そもそもCO2を出さずに森林を増やせるかが問題であるが.植物は太陽光エネルギーを使ってCO2をエネルギーの高い状態であるC O2に変換する.これはポンピングである.結局,C O2CO2に戻るのであるが,そのレートが問題である.全体としては循環系になっており,大気中のCO2濃度はいろいろなプロセスの連関で決まり,変動する.単純な系ではレート方程式をたてて,どのように変化するか計算できる.「CO2削減」というのは,「C O2CO2に変化するレートを小さくする」ということである.車ならゆっくり走ること,通信やコンピュータならゆっくり動作することになる.通信も高速化すると消費電力が増える.しかし,一度手に入れた速度を遅くすることなど不可能にちかいことも現実である.そこで,原子力発電や太陽光発電など,「C O2CO2に変化する」過程を用いない発電に移行することが有効であり,これらは化石燃料がなくなったときに必然となる.化石燃料がなくなればCO2による温暖化の問題はなくなる.であるからして,「地球温暖化」や「CO2削減」を心配するよりも,今ある化石燃料で次のエネルギーシステムをうまく準備することを考えた方がよい.そういう意味で,「CO225 %削減」というアドバルーンは,大変有効ではないか.

 

 

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