ひとりごと22  「太陽光発電とエネルギー変換効率」

2010. 5. 29.  佐藤 憲史

 

 

2008年度から卒業研究において,太陽電池を研究テーマとして取り上げている.学生の関心は高く,そのテーマで卒研をやりたいという学生が今年度まで続いてやってきた.私は,「太陽光発電が地球温暖化を食い止める救世主になる」などという幻想を抱いているわけではない.日本で必要な電力のうち太陽光発電で得られている割合は0.2 %程度という.エネルギー収支(システムの製造・設置・運用に必要なエネルギーと得られるエネルギーの収支)が黒字になるまで5-10年かかり,システムの寿命とそれほど変わらない.今,太陽光発電関連の景気がよいのは,補助金と電力買い取り制度があるからである.夏の昼間に冷房などで電力需要が増えて供給可能量に逼迫するが,そのようなときに太陽光発電はバックアップになる.また,世界中では,電力グリッドのないところで役に立つ.太陽光発電は,電力供給という点では,あくまでも補完的なものだ.

私は,過去に光ファイバ通信の開発に関わっていた経験で,太陽電池が光受信機で使われるホトダイオードそのものであるところに興味があった.特に,エネルギー変換効率がどうなっているか,あわよくばそれを改善する手段が見いだせないかと考えた.光ファイバ通信では,半導体レーザで光を出射して光ファイバに通し,ホトダイオードで受けて電気信号に変換している.現在,主流の太陽電池はシリコンダイオードであるが,太陽光を電流に変換しているという原理は光通信と同じだ.テレビのリモコンではLEDで赤外光を放射し,テレビ側にあるシリコンホトダイオードで信号を受信している.そのホトダイオードは,可視光を遮断するフィルターにかくれており,どこにあるかわからない.光ファイバ通信では,mWレベルの微弱な光を受信している.ホトダイオードはシリコンと異なる材料で,受光面は,ものによって異なるが100 x100 mm2程度と微小である.太陽電池では,これを10 x10 cm2程度のウェハの大きさにして,それを多数貼り付けている.沼津高専の屋上には40 kW規模の太陽光発電システムがあり,300 m2以上のシリコン太陽電池は壮観である.米粒ほどのホトダイオードを通信で使ってきた者にとって,太陽電池は信じがたい広大さである.それだけの面積で均一な特性が得られ,寿命も20年以上あるということは奇跡に近い.それでも太陽電池で得られる電力は,学校で必要な電力の数パーセント程度である.

シリコンダイオードによる太陽光発電で大きな課題は,コストとエネルギー収支である.その根幹に,エネルギー変換効率の低さがある.太陽は,晴天であれば1 m2当たり,約1 kWのパワーを地表に流してくれる.太陽電池はそのパワーを電力に変換しているが,得られる割合は10 %程度であり,1 m2で得られる電力は100 W程度である.およそ9割のパワーはどこかに消えてしまう.多くは熱になり,シリコンが熱くなる.温度上昇により,シリコン太陽電池のエネルギー変換効率はさらに低下する.シリコンダイオード自体の変換効率はもっと良いのであるが,太陽光という広いスペクトルをもつ光を広大な面積で受けることでいろいろな要因から,10 %程度まで低下している.この変換効率を改善できないか,世界中で研究されている.変換効率は変わらなくとも材料を薄くするなどしてコストが下がればよい,というアプローチもある.衛星に搭載される太陽電池は,シリコンではない高性能なホトダイオードを使用している.そのウェハは高価なので,5 x 5 mm2程度のチップにして,レンズで太陽光を集光し追尾システム上に搭載するというアプローチもある.様々な研究開発があるが,決定打はないようだ.

エネルギー変換効率というのは,そうたやすく改善できるものではないと感じる.LED電球が省エネに貢献すると言われる.しかし,そのエネルギー変換効率(消費電力に対して,可視光として得られるパワーの割合)は,30 %程度である.これは,蛍光灯とあまり変わらない.白熱電球は10 %程度であるから,その生産を中止するメーカが現れるのはうなずける.ガソリン車のエネルギー変換効率は,良くて25 %程度ということである.電気自動車はモーターを用いておりロスが小さいが,電気を作る工程まで入れて効率を考えないといけない.電力会社で行われている火力発電では,エネルギー変換効率は,40 %程度である.そこで,ガソリン車よりも電気自動車が良いということになる.これは,最近,電力会社の講座で知った.科学技術の進展は日進月歩であっても,上述したようなエネルギー変換効率が2倍になるとか,50 %を超えるというのは,腰を抜かすような驚異的な話である.電力会社では,天然ガスを用いて59 %の変換効率が実現されているとのことで,火力発電は,かなり優秀であると感心した.

 

 

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