ひとりごと13 「ドラッグ注意報」

2008.11.19 佐藤 憲史

 

 最近,毎日のように,大麻に関した報道がなされている.大学生も多くかかわっており,若者の検挙が増えているとのことだ.学生らがインターネットを通して種子を購入し,栽培して乾燥大麻を流通させていた.高専でも学生に注意喚起する指導をやることになった.警察庁の作成した「DRUG2008薬物乱用のない社会を」というパンフレットを配り,禁止されている薬物に関わらないようにと注意を呼びかけた.大麻という植物から麻という繊維をとることを,小学生のころに習った.大麻は日本に自生しており,簡単に栽培できるそうだ.ただし,大麻を栽培するのには許可がいるし,勝手にはできない.

 学校で配ったパンフレットを読んで,乾燥大麻がマリファナで,大麻樹脂がハッシッシ,けしから採取した液汁を自然に凝固させたものがアヘン,アヘンから抽出したモルヒネを精製して作られるのがヘロインであることなどを知った.(恥ずかしながら,このような薬物の区別をよく知らなかった.)今,なぜこのような麻薬が騒がれているのだろうか.麻薬は高額で取引されるから,お金を稼ごうという動機で始める人が増えているのかもしれない.景気が悪くなって,収入が減っているのは確かだ.そこで手っ取り早い収入源になるのだろうか.麻薬を売る人がいるということは,高額な麻薬のニーズがあり,それが増えているということでもある.

酒やタバコもある種の薬物だ.私は,学生の頃,タバコを吸っていたがすぐに止めた.酒は,ほぼ毎日飲んでいる.酒はアルコールという薬物を含むし,タバコはニコチンを含んでいる.これらも中毒になるとろくなことはない.しかし,合法であり,税金でかなり割高だが,特別なものを除きそれほど高額ではない.酒にはいろいろ種類があって,季節に合わせて楽しめる.私の場合,夏の暑い時はビールで寒い冬はもっぱら日本酒である(妻には,「アル中」と言われている).オランダでは大麻を個人として使用しても犯罪とはならない.大麻は,酒やタバコより健康への被害は少ないという意見がある.飲酒運転での交通事故が後を絶たない.酒を大量に飲むと急性アルコール中毒で死にいたることもあるが,大麻には致死量はないといわれている.しかし,大麻がもっと危険なアヘンなどの麻薬の入り口になるとの指摘がある.ともかく法律が変わらない限り,大麻を勝手には取り扱えない.

今年の夏,817日に放送されたNHKスペシャル「日本軍と阿片」は大変印象に残った.この番組の元ネタを探して,佐野眞一著,「阿片王 満洲の夜と霧」(新潮社,2005年)を知り読んでみた.戦争前後の歴史の裏側が見えて引き込まれる本だ.この本によれば,けしによる麻薬を輸入し,あるいは栽培・生産し,中国内で売りさばいて得た収入が関東軍の資金源となった,「日中戦争は二十世紀のアヘン戦争だった」ということになる.本の内容は麻薬販売に関係した人間模様を描写していて興味深いが,政治や経済に関する突っ込みはあまりない.当時,中国で麻薬中毒者は3%というが,それら少数の消費で莫大なお金が得られる経済的メカニズムがよくわからない.軍が麻薬と関係することは,現代でも世界中のあちこちにある.アフガニスタンや北朝鮮,東南アジア,南アメリカなど,麻薬生産とその流通は世界中にある根深い問題だ.このようなことを学んでいるはずの大学生が,大麻に手を出すとは一体何なのだ.勉強などまともにやっていない学生が大麻に手をだしているのだろうか.そのニーズが増大していることに注意が必要だ.

 

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