最大トルク制御座標系(f-t軸)

永久磁石同期モータの制御を行うための座標系として,固定座標のα-β軸,永久磁石のN極方向をd軸にとった同期回転座標のd-q軸,そして,位置センサレス制御における推定座標系(または一般座標系として)のγ-δ軸が一般的に用いられています.

ちなみにd軸とは,directの頭文字d,q軸とはquadratureの頭文字qを表し,元々は単に直交する二つの軸という意味のようです.しかし現在は,主磁束方向(PMSMの場合は永久磁石のN極方向)をd軸にとり,回転子に同期した回転座標系として用いられるのが一般的になっています.昔の文献を読むときなどには定義が違う場合もあるので注意が必要ですが,最近では国内外問わず,d軸,q軸,(d-axis,q-axis)でだいたい通じるようです.

さて本題に戻り,ここでは,これらに加えて,突極型モータを制御しやすくするために最大トルク制御座標(f-t軸)という特徴的な座標系について考えてみます.

定義

d-q軸上において,定トルク曲線の接線方向,および法線方向に一致するようにd-q軸を回転させた座標軸を最大トルク制御座標系のf-t軸と定義します.定トルク曲線とは,電流ベクトル平面において,トルクが一定となる電流ベクトル軌跡のことです.

最大トルク制御座標系f-t軸の定義

最大トルク制御座標系f-t軸の定義

d-q軸との関係

それでは次に,f-t軸の定義を,d-q軸からの回転角によって表してみます.定義より,定トルク曲線の接線角度として,次のように導くことができます.

同期モータのトルクは,一般に

トルク基本式 ...(1)

と表すことができます.Pn, KE, Ld, Lq, id, iqはそれぞれ極対数,誘起電圧定数,d軸インダクタンス,q軸インダクタンス,d軸電流,q軸電流です.これは,SPMSMの場合はLd=Lq,SynRM(同期リラクタンスモータ)の場合はKE=0と考えれば,同期モータ全般に適用できる基本式です.

この式をiqについて解くと,

定トルク曲線 ...(2)

となります.これを,Tを一定のもと,idに対するiqのグラフとしてプロットすれば,下の図のような定トルク曲線を描くことができます.

定トルク曲線

定トルク曲線の接線の傾きを求めるには,(2)式をidについて微分すればよく,これをd軸からの回転角φを用いて表すと(3)式のようになります.

定トルク曲線の傾き ...(3)

d-q軸からf-t軸への座標変換は,回転変換行列を用いて

座標変換 ...(4)

のように表すことができます.ただし,(3)が示すように回転角φもid, iqの関数となっていることに注意が必要です.

f-t軸の性質

最大トルク制御座標系のf-t軸には,いくつかの興味深い性質があります.

  1. f 軸電流をゼロとすることで MTPA制御を実現する
  2. f 軸方向への電流の微小変化はトルクリプルを生じない
  3. t 軸方向への電流の微小変化はトルク応答を最大にする

もっとも大きな特徴は,その名の通り,最大トルク制御(MTPA制御)を考えるのに好都合な座標系ということです.ここでは,1番目の性質であるf 軸電流ゼロ(if=0)によるMTPA制御についてもう少し詳しく解説します.

f-t軸を用いたMTPA制御

最大トルク制御は,最大トルク/電流制御(MTPA Control:Maximum torque per ampere control)ともいわれ,同一のトルクを発生させる電流ベクトルのうちで,電流振幅を最小にする制御です.逆に電流ベクトルの振幅を一定としたとき,電流位相角に対してトルクが最大になる制御(下図参照)といっても同じことです.リラクタンストルクを有効に利用し,同じ出力を得ながら,電流振幅の2乗に相当する銅損を最小にできるため,IPMSMの高効率制御の代表的な方法として利用されています.

電流位相角に対するトルク電流ベクトル

同一トルクで電流振幅を最小にするということは,言い換えれば,電流ベクトル平面上で,定トルク曲線に対して原点からの距離が最短になる点に電流ベクトルを制御するということです.したがって,原点を中心に描いた円(これを定電流円といいます)が定トルク曲線に接する点が,最大トルク制御の動作点ということになります.円の半径方向と接線は直交することは幾何学的に明らかなので,電流ベクトルが定トルク曲線の法線方向(t軸方向)を向くときが最大トルク制御の条件となります.このような関係から,f-t軸上で電流ベクトルをみると,f軸成分の電流を常に0に制御(if=0)しておくことにより,最大トルク制御が実現できます.

f-t軸と最大トルク制御の関係

MTPA制御時のf-t軸

定義から明らかなように,トルクの基本式に従うと,SPMSMの場合のf-t軸はd-q軸に一致します.なので,突極性の有無に関係なく,最大トルク制御はif=0で行われるということになります.この意味で,IPMSMをSPMSMに見立てて制御することのできる座標系がf-t軸である,ということもできます.

ただし,t軸電流に対して比例的にトルクが出るわけではないので,SPMSMのようなトルクリニアリティは成立しません.そのため,トルク制御を行うときなどトルクの線形性が重視される場合には,テーブルを用いてトルクの線形性を補償します.

参考文献

*[1]
大沼・道木・大熊:「パラメータ誤差に対する安定解析に基づいた拡張誘起電圧オブザーバのインダクタンス設定法」,産業応用部門大会, 1-103(2009)
*[2]
大沼・道木・大熊:「拡張誘起電圧オブザーバのインダクタンス設定のみで実現する最大トルク制御」,電学論D,Vol.130,No.2,pp.158-165,(2010)
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