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望月が学生の皆さんに期待するレポートとは:

レポートの書き方講座(望月孔) →事柄を比較しよう


はじめに:
    私が沼津高専に赴任したのは平成元年ですから, もうずいぶん長く教員を続けたことになります。
    その間に学生実験レポートもずいぶん見てきましが, その際,多くの学生の皆さんに同じようなアドバイスを繰り返し指導してきました。 今回,それらの内で,特に重要と思われることをまとめてみることにしました。 この文章が学生実験レポートを書くときの手助けになれば幸いです。

もくじ
  1. 誰に対して書くか
  2. どの程度まで書くか
  3. どう考察するか-1 (考察は「比較」すること)
  4. どう考察するか-2 (最初に理論が分かっている場合)
  5. どう考察するか-3 (最初に実験から入る場合)
  6. 「初めて出会ったテーマに取り組む能力」を身につけよう
  7. 比較には明確な区別が必要
  8. レポート提出時に「怒られる」理由
  9. 提出期限について

参考

  1. 誰に対して書くか 文章を書く際には,対象を明確にする必要があります。
    対象が明確でないと,どこから書いてよいのか分からなくなると思います。
    私は,私が担当する学生実験レポートについて, 実験をする直前のクラスメートを対象 として書くように勧めています。
    このことから,次のことが言えます:
    私が担当する3年生後期の学生実験テーマでは,積分回路を取り扱います。
    レポート中では積分の原理に関する説明は不要です。 なぜなら,「積分」については2年生で学習済みだからです。
    一方,その回路が積分の動作をする事についてはレポート中で説明すべきです。 なぜなら,回路で積分を実現することについては,実験で学ぶのが初めてだからです。

  2. どの程度まで書くか
    • 「目的」については,指導書を丸写しして下さい
    • 「原理」については,自分で勉強した証拠を残す積もりで書いて下さい (なお,望月にレポートを出す時,もしも指導書丸写しの原理を書くくらいなら, 書かないか,コピーしたものを切って貼り付けてもかまいません。'04 11/5)
    • 「実験方法」については,もう一度全く同じ実験ができるように書いて下さい
    • 「実験結果」については,基本的には,全てを正確に書いて下さい
      一般的な報告書ではグラフだけでもいいのですが,こと学生実験に関して考えると, 学生の皆さんのデータ処理方法が誤っていないかチェックするため元データが必要になります
    • 考察」については,力いっぱい書いて下さい
    • 「感想」については,書く必要はありませんが,余力があったら書いて下さい

  3. どう考察するか-1 (考察は「比較」すること)
  4. 考察するということは,望月に言わせれば,「比較する」ということです。

    例えば,「Aさんはクラスの中で背が高い方である」ことを説明するにはどうするか:
    1. (だめな例)「Aさんはとっても背が高い」と記述。
      (だめな例2)「Aさんはすごく背が高い」と記述。
      (だめな例3)「Aさんはチョー背が高い」と記述。
      (だめな例4)「Aさんはとってもとってもとっても背が高い」と記述。
      ↑いくら背が高いといいたくても,根拠がなければ伝わらない。
    2. (良い例)Aさんの身長をクラスの平均身長と比べ, (本当に背が高いなら)平均値よりも背が高いと記述。
      (良い例2)クラス全員を高い順に並べて (=隣同士を比較し,逆順なら入れ替え), Aさんの順位を求め。 クラスで何番目に背が高いと記述。
    比較するには,数字を使うことが有効です。 そうした論じ方を,「定量的に論ずる」と言います。 表れる数字に嘘偽りがないなら,これほど確かな考察はありません。
    なお,比較を大雑把に行いたいならば, その性質のみに注目した「定性的な話」で済むことがあります。

    実験を行い,データをグラフにまとめたとしましょう。 実験に誤差が少ない場合はデータは一本の線の上に乗ることでしょうし, 誤差が多かったならばデータは乱れるでしょう。 データをグラフ化する事は「データ同士を比較すること」なのです。
    普通の実験では,更に同じグラフ上で「理論」と比較したり,「過去のデータ」と比較します。

  5. どう考察するか-2 (最初に理論が分かっている場合)
  6. 究極的には全ての電気電子現象はマクスウェルの法則に従っています。
    そのため,電気電子工学科で実施する学生実験も,何らかの法則に従っています。

    多くの学生実験では,ある理論が正しいか確認します。
    考察の道筋は,大雑把に言うと次のようになります。

    1. ×××の理論によると,△△△の条件のもとでは□□□のような物理現象(=回路動作)が予想される。
    2. 実際に,△△△の条件のもとで実験すると,■■■の物理現象(=回路動作)が観測(=測定)された。
    3. ■■■ と □□□ を比較すると☆☆☆%の誤差がある。
    4. 一方,誤差を検討すると,今回の実験では★★★%の誤差が想定される。
    5. 実験で生じた誤差☆☆☆%は想定された誤差★★★%に比べて小さいため, ■■■ と □□□ は一致していると言える。
    6. 前項の結果,×××の理論が(今回の私達の実験でも)確かめられた。

  7. どう考察するか-3 (最初に実験から入る場合)
  8. 学生実験のテーマによっては, 実験手順は示されるものの,理論については前もって示されていない場合があるかもしれません。 むしろ,実際の研究所で行う研究は, こういうケースの方が多いのかもしれません。

    この場合,考察の道筋は,大雑把に言うと次のようになります。

    1. △△△の条件のもとで実験すると,■■■の物理現象(=回路動作)が観測(=測定)された。
    2. 実験の内容を考察すると,×××という理論がこの物理現象(=回路動作)を支配していると考えられる。
    3. ×××という理論を当てはめると,△△△の条件のもとでは□□□のような物理現象(=回路動作)が予想される。
    4. ■■■ と □□□ を比較すると☆☆☆%の誤差がある。
    5. 一方,誤差を検討すると,今回の実験では★★★%の誤差が想定される。
    6. 実験で生じた誤差☆☆☆%は想定された誤差★★★%に比べて小さいため, ■■■ と □□□ は一致していると言える。
    7. 前項の結果,△△△の条件による■■■の観測(=測定)が得られる理由は,×××という理論にあると結論できる。

  9. 「初めて出会ったテーマに取り組む能力」を身につけよう
  10. よく,沼津高専卒業生が,「実社会では学校で学んだことが役立たない」ということがありますが, それは半分本当で,半分は嘘なのです。

    まず,「本当だ」という点を説明します。
    会社は,自分が得意な分野の製品を出荷して儲けるのですが, もしも高専で学んだことだけで作られる品質だとしたら, 直ぐに競合他社にシェアを奪われてしまうことでしょう。 実社会では,学校の授業でやらないような先端技術で儲けるのです。

    続いて,「嘘だ」という点を説明します。
    前節では,「学校の授業でやらないような先端技術」を開発することの必要性を話しましたが, そういう技術を開発するための能力は何処で身につけるのでしょうか!? それは,学生実験や卒業研究だと,望月は考えます。
    学生実験において,学生の皆さんが取り組む各テーマは, (場合によっては講義でカジッタことはあるかもしれないが) 普通の学生さんからみれば, 生まれて初めて取り組む内容ではないかと思います。 こうしたテーマについて,学生自身が独自に取り組むことにより, 「初めて出会ったテーマに対して対処する能力」が開発されるものと思います。
    学生実験で身につけるこうした能力は, 将来どのような職業についたとしてもきっと生かされることだと思います。

  11. 比較には明確な区別が必要
  12. 考察するコツは,物事を比較することです。そのためには物事を明確に区別して使う必要があります。

    「どう考察するか-1 (考察方法)」の節で,比較の大切さを説明しましたが, 例えば次のことが明確ならばこそ,数字を比較する価値があるのです。
    1. その数値は,指導書に指示されているものか
    2. その数値は,実際に適用したものか
    3. その数値は,測定して求めたか
    4. その数値は,測定値を平均して(=測定値を使って計算して)求めたか
    5. その数値は,純粋に理論から予想できるものか
    6. その数値は,理論から計算したが,理論式内のパラメタのうち○○○個は測定値を代入したものか

    学生の皆さんがよく陥る間違いは,うまく「比較」できないことです。 そういうレポートは,以上の点を曖昧(あいまい)なまま数字を使った可能性が高いです。
    学生さんによっては,最初から「理論は正しいに決まっている」と決めつけ, 本来は理論的に求めるべきパラメタの代りに, 測定結果から逆算したパラメタを使う場合が見られます。 これなら計算値と実験値が合うに決まっています。 こうした数値の使い方を,捏造(ねつぞう)と言います。

    例えば,グラフ等の図形でも,明確に区別することが重要です。例えば比例関係と一口に言っても,
    ○ その実験では何かの法則から比例が期待されているのか
    ○ その実験結果をプロットすると明らかに比例の特性なのか
    ○ その実験結果のプロットでは比例とも比例でないとも見られるが「自分は」比例と信じたのか
    ○(その実験では比例という結果が出ると友人から教えてもらったのか)
    これらをはっきりさせる必要があります。

  13. レポート提出時に「怒られる」理由
  14. レポート提出は,必ず望月教官に手渡しします。 そして,その際に簡単なインタビュー試験があります。
    怒られても落ち込まないで下さい。 普通の学生さんなら,最初のうちは報告書をきちんと書けなくて当然です。 むしろ,「発展する余地があるから指摘された(怒られた)」と考えてください。 卒業するまでに,良いレポートを書く能力を身につければ良いのです。 ある意味では,怒られる学生ほど得した(=教育を受けた)とも言えるのです。
    なお,学年が上がるにつれて,報告書に求められる品質も高くなります。

  15. 提出期限について
  16. 提出期限は実験実施後1週間と決められていますから,必ず守ってください。
    もしも守れない場合,望月教官に相談に行き,何時提出するのか改めて約束しなおして下さい。
    私の実験に関する評価点は,レポートの品質や提出日時と次のように関連します。
    ◎◎ 期限内に十分な内容のレポートを提出
    期限内に普通の内容のレポートを提出
    期限内に不十分な内容のレポートを提出
    ×× 期限を越えて普通の内容のレポートを提出
    ××× 期限を越えて不十分な内容のレポートを提出
    期限を守ったかどうかで,点数に逆転が表れています。 このような点数配分をする理由は,「期限」が非常に大切なためです。 実社会を考えてみてください。 部下(学生)が上司(教官)から仕事を受けたとき, 必ず期限内に何らかの回答が必要です。 回答の内容が悪いものだったなら,別の指示(=アドバイス)ができます。 むしろ,うまく仕事が進まないときほど,中間報告が必要なのです。

    たしかに,毎週学生実験が行われる中で,レポートを1週間で仕上げるのは大変なことです。

    しかし逆に考えると,レポート提出期限が1週間に限られることによって, 学生さんが助かっている部分もあるのです。 私が学生の皆さんに望んでいるのは「完成に2週間も3週間も必要な報告書」ではなく, 「たかだか1週間で書ける報告書」なのであり, 100ページを超えるような大掛かりの報告書は期待していないのです。

どうでしょう,レポートを上手く書けるような気持ちになったでしょうか。 却って難しく感じられるようになったでしょうか。 なんだかんだ書いてきましたが,一番大切なことは, とにかく自分でやってみることです。 頑張ってみてください!!!