10. 安らぎ(涅槃、彼岸)

 この世の苦しみを脱して到達される安らぎは、「涅槃」といわれる。仏教の究極の目的である。涅槃は、nibbāna (Sk. nirvāṇa)の音訳である。nibbānaは「消滅」を意味し、欲望を火にたとえて、涅槃は火の吹き消された状態として表現される(Sn.1074.)。また、欲望が激流にたとえられ、涅槃はそれを越え渡ったところであるから、「彼岸」(pāram)ともいわれる。『スッタニパータ』第 5章は「彼岸にいたる道の章(pārāyanavagga)」と名づけられている。

 涅槃は、後には死と結びつけられるが、はじめは現世において得られるものとされていた。

「この世において、見たり聞いたり考えたり意識したりする形うるわしいものに対する欲望やむさぼりを除き去れば、不滅の安らぎの境地である。」 (Sn.1086.)


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