2. 説一切有部

 諸部派のうち、特に有力であったのは説一切有部である。

 この部派は、カニシカ王(c.132-152年在位)の庇護を受けて栄え、多くのアビダルマ文献が生み出された。その代表は『阿毘達磨大毘婆沙論』(あびだつまだいびばしゃろん)で、多岐にわたる内容を包含しており、さながら古代インドの大百科全書である。

 アビダルマ文献のうち最も有名なものは、ヴァスバンドゥ(世親、4、5世紀頃)の『阿毘達磨倶舎論』(あびだつまくしゃろん)である。これは、大部な『婆舎論』の内容をときには批判をまじえて巧みに要約したもので、仏教教理の基礎をなすものとみなされ、中国、日本において尊重された。2)


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2) 桜部建・上山春平『存在の分析<アビダルマ>』(「仏教の思想」第2巻、角川書店、1969年)  【本文へ】