5. 人生の3つの目的(トリヴァルガ)

 ヒンドゥーの人生には三つの目的があると説かれる。三つとは、アルタ・カーマ・ダルマである。これをトリヴァルガ(trivarga)と呼ぶ。「トリ」とは「3」、「ヴァルガ」は「組、セット」の意味である。

 トリヴァルガは、それぞれ詳細に論じられ、多くの論書が書かれた。アルタについては「アルタ・シャーストラ」、カーマについては「カーマ・シャーストラ」、ダルマについては「ダルマ・シャーストラ」と呼ばれる文献群が生まれた。これらのうち代表的な文献は、アルタについてはカウティリヤの『アルタ・シャーストラ』1)、カーマについてはヴァーツヤーヤナの『カーマ・スートラ』2)、ダルマについては『マヌ法典』3)である。

 (1)「アルタ」は、普通、「実利」と訳される。名誉、富、権力など、現世において追求されるものである。

 (2)カーマは「性愛」で、その論書カーマ・シャーストラは、性行為の指南書である。ただし、カーマは、文化的に洗練された粋人から学ぶべき事柄とされている。単なる性欲の充足を目的とするものではない。美的で文化的な要素を多く含む。そのため、インドの文学にカーマ・シャーストラは極めて大きな影響を与えた。

 (3)ダルマは、「法」と訳される。ダルマを論ずる聖典は、古代インドの「法典」である。しかし、ダルマは、我々の考える「法律」よりはるかに幅が広く、宗教的、道徳的な義務も含む。そのため、ダルマの追求には、現世だけでなく、来世も重要な意味を持つ。

 『カーマ・スートラ』 第1章、第2節において、「トリヴァルガ」は次のようにまとめて説明される。


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1) 上村勝彦『実利論』岩波文庫、1984年

2) 岩本裕『完訳カーマ・スートラ』杜陵書院、1949年(再刊 平凡社 東洋文庫)

3) 渡瀬信之『マヌ法典』中公文庫、1991年

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参考文献

原実、上村勝彦「ダルマ・アルタ・カーマ----人生の三目的」『インド思想3』岩波講座東洋思想 第7巻、1989年