2. 業・輪廻の思想

 輪廻(saMsAra サンサーラ)とは、生き物がさまざまな生存となって生まれ変わることである。輪廻説はピュータゴラス派など古代ギリシアにも見られる。起源についてはいまだ不明である。インドでは、『チャーンドーギヤ』(5-3-10)と『ブリハッドアーラニヤカ』(6-2)の両ウパニシャッドに現れるプラヴァーハナ・ジャイヴァリ王の説く輪廻説(五火二道説)が、明確に説かれる最初の例である。クシャトリヤ階級の王によって説かれるから、輪廻説は、婆羅門によるヴェーダの伝統とは異なる思想系統から生まれたものとするのが通説であったが、最近、五火二道説がヴェーダの祭式と深いつながりがあることが指摘されている。3)

 業(karman)とは行為のことである。行為は行われた後になんらかの効果を及ぼす。努力なしで、目的は達せられない。目的が達せられるのは、それに向かう行為があるからだ。しかし、努力はいつも報われるわけではない。報われないことがあるのはなぜか。運のせいか?

 業の理論は、それを「前世における行為」のせいだとする。行為の果報を受けるのは、次の生で、この世では、努力してもうまくいく場合と行かない場合がある。その処遇の違いは、前世に何をしたかで決定されているとする。行為は行われた後に、なんらかの余力を残し、それが次の生において効果を発揮する。だから、よい行為は後に安楽をもたらし、悪い行為は苦しみをもたらす(善因楽果・悪因苦果)という原理は貫かれる。こうして、業は輪廻の原因とされた。生まれ変わる次の生は、前の生の行為によって決定されるというのである。これが業による因果応報の思想である。

 業・輪廻の思想は、現代インドにおいてもなお支配的な観念で、カースト制度の残存と深く関わっている。


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3)井狩彌介「輪廻と業」(服部正明編『岩波講座東洋思想 第六巻インド思想2』)、1988年、275頁以下。【本文へ】