第3章 インド仏教の発展

第1節 部派仏教ーーアビダルマ哲学

1.部派仏教とアビダルマ哲学の成立

 ブッダの入滅後100年ころ、教団はの解釈をめぐって、保守派の上座部と進歩派の大衆部(だいしゅぶ)に分裂した。その後さらに分裂をかさね、成立した部派の数は18あるいは20と伝えられる。

 各部派は、自派の教理にもとづいて聖典を編纂しなおし、独自の解釈を立てて論書を生み出した。それらはアビダルマといわれる。そして、これを集めたものが論蔵(アビダルマ蔵)で、ここに経蔵・律蔵とあわせて三蔵が成立した。1)

 多くの部派のアビダルマは失われた。現在完全に伝わっているのは、南方上座部のパーリ語のアビダルマと漢訳された説一切有部のもののみである。論書のうち古いものは紀元前 2世紀の成立とみなされる。

 アビダルマとは、「ブッダの教え(ダルマ)に対する(アビ)考究」である。アビダルマの論師たちは、ブッダによって教え説かれたダルマを吟味弁別することが煩悩をしずめる唯一の方法であると考えた。

 かれらは、教理の体系化を進めて、須弥山説といわれる巨大な宇宙観を含む壮大な教理体系を築き上げた。時期を同じくする頃、婆羅門思想ではサーンキヤやヴァイシェーシカの宇宙観が成立している。当時のインドの思想界には、宇宙の成立ちに対する強い関心があった。アビダルマ哲学の成立も、この傾向と密接にかかわる。


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1) 仏典は経・律・論の三種にわけられ、三蔵 (tipiṭaka 三つのかご)といわれる。経 (sūtra, sutta) はブッダの教えをまとめたもの、律 (vinaya) は、僧団での生活規定および諸規則、論 (abhidharma) は、部派仏教時代に成立した教理の解釈である。

 玄奘を「三蔵法師」と呼ぶのは、仏典のすべてに精通しているという意味での尊称である。 【本文へ】