『リグ・ヴェーダ本集』の時代からブラーフマナの時代へうつると、祭式観は変容した。祭式万能の思想が現れた。この時代には、神々よりも祭式のほうが強力と見なされる。正確に行われる祭式は、神々をも支配すると考えられるようになった。
神々は、祭場に呼び出され、そこで唱えられる聖句のもつ呪力によって支配される。神々の恩恵を求めるというよりは、神々を祭式によって操作することにより願望が実現される。このような考えにもとづき、正確な祭式の実行のために、祭式の細部にわたる規定と解釈が発達した。その集成がブラーフマナである。
ブラーフマナの代表的な文献として『シャタパタ・ブラーフマナ』『アイタレーヤ・ブラーフマナ』『ジャイミニーヤ・ブラーフマナ』などがある。1)
祭式においてアドヴァルユ祭官はヴェーダの詩句(マントラ)を唱えることで、祭火や祭具など祭場にあるすべての物と宇宙の神秘力(神々)とを象徴的に同定する。たとえば、祭火に向かってマントラによって「アグニよ」と呼びかけることで、祭火は火神アグニと同一視される。その結果、祭場において神秘力が発現し、願望は成就されると考えられた。ここから、祭式によって神々すなわち宇宙を支配することが可能という考えが生まれてきた。
ブラーフマナの祭式万能の思想の中から、ついにはマントラのもつ力そのものが宇宙を支配する原理として神格化され、最高神と見なされるに至る。これが次のウパニシャッド時代に、多くの思想家の関心を集めたブラフマンである。
祭式はアーリア人社会の中の最上階級、婆羅門(ばらもん、brāhmaṇa ブラーフマナの音訳)によって行われた。この宗教は、ガンジス河上流地方において、半農半牧の村落を基盤として成立していた。
注